182号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
Neuromuscular Theoryに基づきマイオモニターJ5 K7エバリュエーションシステムEXを用いた矯正歯科治療
キーワード:生理的下顎安静位/Neuromuscular theory/歯科矯正治療の目的
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Neuromuscular theoryに基づいた歯科治療(神経筋機構に適合する歯科治療)
- ≫ <症例1:歯科充填物から顎関節症を発症した症例>
- ≫ <症例2:2級のケースWits 7mm、ANB6.3>
- ≫ 考察
はじめに
神経や筋肉の診断など、口腔筋機能療法の歯科診療での必要性は古くから提唱されてきた。
矯正歯科学の口腔筋機能療法の父といえば米国初の矯正歯科専門医であるAlfred P Rogersであるが、彼が1918年に発表した『筋肉の体操と矯正歯科』1)から1世紀以上経った今でもその考え方が支持され続けている。
その後も口腔筋機能療法はBrodieなどによって盛んに提唱されてきたが、当時はキネジオグラフや口腔筋機能療法による変化の維持などのエビデンスが確立しておらず、1950年代にBroadbentセファロによる頭骸骨の正常な成長の平均値が確立されてからはセファロなど測定しやすい硬組織診断に重きが置かれるようになった。
現在、キネジオグラフなどの筋肉の診断を元に治療するNeuromuscular theory注1)は米国の矯正歯科専門医の間では未だ一般的ではないが、一般歯科医の間では増え続けている。その理由としてテクノロジーの進歩とエビデンスの蓄積もあるが、インターネットの普及により患者のデンタルIQが向上したことで需要が明確になったことが最大の理由である。他の医療機関で解決しなかった噛み合わせ異常を疑う患者が神経筋機構に適合する治療法を求めているのだ。
アライナー矯正の普及も同じであった。初期のプロバイダーは矯正歯科専門医に限られていたが、大半はテクノロジーの進歩を待てず従来のブラケットによる治療に戻ったため矯正歯科専門医の間では普及しなかった。そこでアライナー矯正は一般歯科医師のマーケットに移り、徐々に普及していった。そして患者からの需要とテクノロジーの進歩に伴い、矯正歯科専門医は再びアライナー矯正を取り入れざるを得なくなった。現在、米国ではアライナー矯正を提供しない矯正歯科専門医は少数派である。 Neuromuscular theoryに基づいた矯正歯科治療も同様の運命をたどるのではないだろうか。
Neuromuscular theoryに基づいた歯科治療(神経筋機構に適合する歯科治療)
Neuromuscular theoryでは生理的下顎安静位をマイオセントリックと言い、拮抗する開口筋、閉口筋が下顎の位置(生理的下顎安静位)を維持するために最小の電気的活性を示し、筋肉によるトルクのない下顎位を維持することが治療目的となっている。
マイオモニターJ5(以下J5)およびK7エバリュエーションシステムEX(以下K7)は、1966年に米国のシアトルの歯科医師であったDr.Bernard Jankelsonにより、Neuromuscular theory に基づいて開発された生理的下顎安静位を求めるシステムである。
そのシステムはCMS(Computerrized mandibular scanning:コンピュータによる顎運動の記録)・EMG(Electromyography:筋電計)・オプションとしてESG(Electrosonography:顎関節音測定器)から成るK7とJ5:TENS(Transcutaneous Electrical Neural Stimulation:経皮的電気神経刺激)とで構成される。生理的下顎安静位と、習慣性咬合位の違いをコンピュータの画面上で確認できる。現行機は7世代目なのでK7と呼ばれている。
J5が三叉神経と顔面神経を0.67Hzで刺激することにより咀嚼筋を正常な状態に戻してから不随運動によって下顎の閉口路の軌跡を導き、そこから生理的下顎安静位(マイオセントリック)を求める。ここではJ5、K7の詳しい説明は割愛させていただくことにする。
今回はJ5およびK7(図1-1、2)を使ってNeuromuscular theoryによる治療法で生理的下顎安静位(マイオセントリック)を計測して治療を行った症例を検証したい。習慣性咬合位/下顎安静位を安易に変えるべきではないが、顎関節症の症例においてもNeuromuscular theoryにより下顎を生理的下顎安静位に設定して治療を行った場合、症例1のように改善率は極めて高いことを述べておきたい2、3)。
図1-1 マイオモニターJ5-
図1-2 K7エバリュエーションシステムEX
<症例1:歯科充填物から顎関節症を発症した症例>
主訴:3本の歯の治療後、噛み合わせが悪くなる。舌の痛み、耳鳴り。
病歴:過去の大きな病歴なし。3カ月前に歯科医院で3本の歯の充填をした後、噛み合わせが悪くなり、度重なる咬合調整の結果発症した。複数の噛合わせ専門歯科医師を受診するが解決しないため、オレゴンから片道4時間かけて付き添い人を伴い来院された。食事、睡眠など日常生活に支障をきたしており、仕事にも行けず、対人恐怖症になっており、他にも精神衰弱、鬱病と診断されていた。顎関節の痛み、舌痛、吐き気、動機息切れなどの症状を訴えていた。K7で診断したところ、噛み合わせのずれは前後方向だけでなく左右方向にみられた。左右の側頭筋の緊張もみられ、咬合の前後的なずれを示唆している(症例1-1、2)。
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