キーワード:GBR法/3次元的賦形
Tiハニカムメンブレンは薄い素材であるため操作性が良く、合併症が少ないことを経験してきて、私の臨床の中で応用頻度が高くなってきている材料である。
患者は初診時69歳男性、最近作った上下の部分床義歯をインプラントに替えたいとの希望で来院された。全顎治療を行ったが、本稿ではTiハニカムメンブレンを用いた左下臼歯部の治療経過について報告したい。
6は歯周病により根尖に及ぶ骨吸収が認められ、歯の動揺も顕著で保存不可能と判断した。4は2年前に自然脱落したままであった。このため₅は近心傾斜し、また舌側にも傾斜が認められた(図1)。矯正すれば残せなくはない歯であったが、467にインプラント修復が必要であり、治療をシンプルにし、治療期間も長引かせることがないように、年齢にも配慮し、5は戦略的に抜歯を行いインプラントによる固定性の補綴装置を選択した。
インプラント植立の計画では、とくに7に注意が必要であった。パノラマX線写真では骨頂から下顎管まで十分距離があり、容易にインプラントを埋入できるように見えるのだが、図2のようにCBCTのクロスセクショナル画像を見ると同部位の下顎骨の舌側が大きく陥凹しており、長さ6mmのショートインプラントであれば埋入可能と診断した1)。CBCTを自院に導入前であったら、事前にこのリスクを知ることは困難であっただろうと考えると、改めてインプラント治療におけるCBCTの有用性について確認することができた症例でもあった2~4)。
フラップを展開すると、舌側の皮質骨壁は骨吸収はほとんど無かったが、歯周病による骨吸収によりとくに467の頰側の歯槽骨の吸収が著しく、インプラントを埋入するとそれぞれのインプラントの頰側に裂開が認められ、水平的な骨造成が必要な状態であった(図3-a)。垂直的には舌側の骨壁で高さが保たれており、側方への骨造成であったため、埋入と同時のTiハニカムメンブレンを応用したGBR法を選択した。
十分な量の骨移植を行い(図3-b)、Tiハニカムメンブレンで被覆し、頰舌側のフラップに骨膜減張切開を加え閉鎖、縫合した5、6)。
Tiハニカムメンブレンには表面と裏面があるが、このときは逆になってしまっている。機能的には問題無いが、フレームが外側にくると、メンブレンを屈曲させたときにフレームの先端が浮き上がり、それが治癒期間に粘膜を貫通してしまう恐れがあるため、フレームが骨面側になるようにしなければならない(図4-a)。幸いそのようなトラブルも無く経過し、7ヵ月後の二次手術時、Tiハニカムメンブレンを除去し良好な結果を確認した(図4-b)。
Tiハニカムメンブレンはわずか20μmと薄く、以前応用していたチタンメッシュと比較して、賦形性に優れ、チタンメッシュのように軟組織がメッシュの網目の中に入り込むことがないため、治癒後除去が容易である。もしピンでTiハニカムメンブレンを固定していないケースであれば歯槽頂切開とわずかなフラップの挙上で取り出すことも可能である。GBR後4年、補綴装着後3年経過しているが、インプラント周囲辺縁骨の吸収も認められず安定しており(図5)、経過良好である(図6)。
Tiハニカムメンブレンは3次元的な賦形が比較的容易であり、その形を粘膜下で維持してくれるため、意図した形態や量の骨造成を可能としうる材料であると考える。