キーワード:前歯部インプラントのGBR/非吸収性メンブレン/安定した組織増生
インプラント治療は広く普及し、信頼性の高い治療と言えるが、埋入部位のコンディションによって、その難易度は異なる。抜歯後のインプラント埋入時期は第3回ITIコンセンサス会議において、Type1~4に分類されているが、一般的には抜歯後4~8週でのType2での対応が推奨されている。特に前歯部インプラントにおいては頰側の骨が薄く、その時期でのGBRを前提とした処置を行うことが多い。
しかし、GBRで対応すべき骨欠損の範囲が大きくなると、埋入部位の再建は実現が困難となる。この達成のためには長期にリモデリング期間中残存し、欠損部の形態を維持することのできるメンブレンが必要となってくる。このことから、非吸収性で強度のあるメンブレンやチタンメッシュが選択肢として考えられることが多いが、非吸収性メンブレンは組織の再生部への細胞遊走を遮断してしまい、またチタンメッシュでは裂開しやすいとの報告があり1)、実際には吸収性メンブレンを使用することが多い2)。しかし、吸収性メンブレンでは長期のスペースメイキングは難しく、臨床を行う上では非常に葛藤することが多い状況であった。
本症例では、これらの欠点を補うことが可能な設計を持ち、チタンのフレームによって賦形性を有するTiハニカムメンブレンを用いてGBRを行った。その結果、インプラント治療の良好な経過が得られたため、報告する。
初診:2019年2月25日
患者:59歳女性
主訴:前歯の被せがグラグラする。
上顎左側中切歯は補綴物の脱離、動揺を認め(図1)、また、頰側のプロービング値は12mmとなっていた。炎症所見と検査値から垂直性歯根破折と判断し、抜歯を行った。頰側の骨欠損が考えられたため、抜歯4週間後のType2時期にGBRを行い、インプラントを埋入する治療計画とした。前歯部インプラントではインプラント周囲に予測される骨吸収を考慮し、2.0mm以上の頰側部位での骨幅を確保することが審美上必要となる3)。
Tiハニカムメンブレンは十分な強度があり、審美領域でのGBRで計画する骨幅を維持する能力に長けているが、歯肉の治癒時にメンブレンが移動し、予定した形態が得られないこともあるため、著者は固定を十分に行うことを臨床上重視している。本症例ではチタンスクリューピンを用いて固定を行い、その中に骨移植材を填入し、GBRを行った(図2、3)。
術後、治癒期間として6ヵ月の待機期間を置き、頰側の骨量が維持されているかを確認した上で埋入を行い(図4~7)、3ヵ月経ったオッセオインテグレーション後、テンポラリークラウンへの置き換えを行った(図8)。軟組織のボリューム不足があり、審美的な問題が生じたため、インプラント周囲と隣在歯の歯肉溝からMGJまでを部分層で形成し(図9)、内部へ口蓋側から採取した結合組織をY字にカットした状態で該当部の頰側、歯冠乳頭下に挿入し、縫合を行った。
治癒期間を経た後にトリミングを行い(図10)、テンポラリークラウンのマージン部にCRを盛り足して形態修正し、歯肉の調整を行った(図11)。しかし、患者との話し合いの結果、歯間乳頭の審美性よりも、歯間部の清掃性を優先し、歯間乳頭の圧迫を減らす補綴形態とすることとした(図12)。
前歯部インプラントにおいては術前に頰側骨のボリュームが不足している場合が多く、難症例となることがしばしばである。特に本症例の様に頰側で歯根破折が認められる場合においては組織の損傷が強く、その成功のためには、硬組織・軟組織のマネージメントが必要となる。この場合、硬組織の再建としてGBRを行うが、冒頭での記載のように骨移植材の長期の形態の維持は非常に困難である。
本症例ではTiハニカムメンブレンを用いることで、安定した組織の増生が実現できた。長期の賦形を行うことのできる非吸収性メンブレンでありながら、栄養透過性が期待できることから、今後骨増生時の主な選択肢の一つになると考えらえる。