出席者: 澤田則宏・山本寛司会:高瀬<(株)マニー開発担当>実体顕微鏡(マイクロスコープ)がもたらす歯科診療人に優しい歯科診療を考えるデンタルをテーマに明るい情報をお届けします。C O N T E N T SISSN 0915-0765商品本部実体顕微鏡(マイクロスコープ)がもたらす歯科診療出席者:澤田則宏・山本寛司会:高瀬<(株)マニー開発担当>■関連商品204鼎談東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食機能保存学講座歯髄生物学分野東京都開業高瀬実体顕微鏡(マイクロスコープ)が医療分野へ導入されたのは、1950年代、まず耳鼻咽喉科の領域で、その後、眼科、脳神経外科、整形外科の順に導入されてきました。一方、歯科領域では、1980年代の後半、口腔外科や歯周外科で最初に導入があり、1990年代の後半からは歯内療法の分野等でも用いられるようになってきました。歯科治療は医科の分野に匹敵する精密さが必要ではないかと思っているのですが、現状は肉眼での治療が主であり、倍率を求める際は拡大鏡に頼っていたのが一般的のように思われます。そこで今回、マイクロスコープを歯科領域でどのように用いるかについて、澤田先生と山本先生のご意見をお伺いしたいと思います。澤田マイクロスコープは最初医科の方で使われ始めたのですが、当初はなかなか認められなかったそうです。やはり山本確かにそのとおりだと思います。ただ、一つ忘れてはいけないのは、歯科の分野でいうと、技工所ではもう既に日常的に使われているわけです。裸眼で支台歯を形成して、印象を採って、模型を作る。一方技工所は、マイクロスコープを使って一ケタ上の精度で仕事をする環境を持っているとい本当に価値あるものとして認められるのには5年、10年とかかります。そういう意味で、歯科で実際に使用され始めたのは1990年前後だと思います。それから今やっと10年、そろそろ普及してきてもいいかなあ、というのが私の感覚なんですけれど。鼎談実体顕微鏡(マイクロスコープ)がもたらす歯科診療年発表者実験系被験歯数1根管2根管1969 Weine in vitro 208 48.5 51.51972 Pineda in vitro 262 51.5 60.71973 Seidberg in vitro 100 38.0 62.01973 Seidberg in vivo 201 66.7 33.31982 Hartwell in vivo 538 80.7 18.61997 Penn Endo in vivo 153 58.8 41.2上顎第一大臼歯近心側根における根管数澤田則宏先生図1表1ユニットの観察視軸と照明軸の間には、数十度のズレがあるため、暗い根管内に照明は当たらない(左)が、マイクロスコープを用いると、照明軸と観察視軸がほぼ一致するため、見たい根管内に光が届く(右)(文献より改変)う現状には、多少問題を感じますね。そういう意味からも、臨床の領域でもっと早く使われてもよかったんじゃないかという気がします。高瀬続いて、歯科におけるマイクロスコープの現状についてはいかがでしょうか。山本マイクロスコープの現状ということですが、それを使う人の現状というか認識度ということになると思います。まず「本当に役に立つのか?」という疑問です。自分は目がいいから、別にいらないということになるわけです。次に、外科手術で活用できることはみなさんよくご存知ですが、一般の開業医で外科手術をやる割合はそれほど多くないという話になってしまう。そうすると、それほど役に立たないんじゃないかと思われてしまいます。そして、拡大鏡で十分じゃないかということですね。このあたりの疑問に対するしっかりした答えを伝えないと、マイクロスコープの有用性を理解してもらえないんじゃないかなと思っています。高瀬それでは、マイクロスコープの有用性について、お話しいただけますでしょうか。山本小さくて見えなかったものが見える。これがマイクロスコープの一番の利点ですね。ところが、もう一つ、ベテランの先生は裸眼で見えていない部分を、実際そこにあるはずだという心の目で見ている。ただ、それを身につけるには永年の経験が必要ですし、若い先生を早く一人前にするという意義からも実物を見るということが早道ではないかと思います。その他にも、適切な姿勢で診療できることもあげられます。そして、私が一番重視しているのは、自分が見たものと同じものを患者さんに画像として見せられるということですね。これは拡大鏡などにはない利点だと思います。モニターでそのまま見せたり、プリントするというだけでなく、説明ソフトなどと連携させたり、配布資料などにも利用できるということで、拡大鏡と違って、その場限りではないというところが非常に有用だと思っています。澤田有用性という意味では、拡大された視野と光の向きですね。いわゆる観察視軸と照明軸が一致するというのが、エンドでは一番のメリットです。最近、人間の目の限界というのをつくづく臨床で感じているんですが、拡大率と明るさによって、今まで見えなかった世界が見えてくる。そこが一番クローズアップされるところですね。高瀬観察視軸と照明軸の一致について、もう少し詳しくお話しいただけますでしょうか。澤田肉眼の場合、当然、観察視軸と照明軸は違います。マイクロスコープを使えばそれらが一致して、見たいところに光がしっかり当たるということです(図1)。実は今日、マイクロスコープを使ってフラップ手術を行いました。5番と6番の間の深いところを肉眼で一生懸命見て、スケーリングしたつもりだったのですが、もう一回マイクロスコープで見てみると、深い暗いところにある歯石をやはり見逃しているんですね。そういう暗い、狭いところというのは口腔内ではたくさんありますから、そういうところに光が当たり、拡大率が上がって見えてくると、今まで見えなくて見逃していたものがどんどん見えてくるんじゃないかな、という気はしました。先程、山本先生から「目がいいから、いらないんじゃないか」というコメントがありました。実は私も最初はそう思っていた一人なんですが、マイクロスコープで見るから見えるもの…。歯科医の先生方に一度、のぞいていただければ、この違いがわかると思います。高瀬次に、マイクロスコープを利用した先生方の臨床例をお話しいただきたいのですが。澤田表1は、私が留学していたペンシルべニア大学の非常に興味深いデータで、上顎の第一大臼歯近心側根に何根管あるか、というものですが、抜去山本寛先生図2図3下顎第二大臼歯抜髄症例。矢印部に見落されていた根管が存在する。二根管性の下顎前歯。矢印部に見落されていた根管が存在する。歯を使ったデータだと50%~60%に2根管あるんですが、実際の臨床では33%、18%。実はこのお二人の先生はアメリカのエンドドンティストの先生で、これだけ肉眼で見つけるというのは非常に高い数値だと思います。私の場合は、マイクロスコープを使う前は10%にも満たなかったんです。一番下の97年のデータがペンシルベニア大学でエンドを勉強している卒後2年目ぐらいの先生たちのデータなんですが、彼らは41%近心側の第2根管を見つけているんです。これはなぜか。ベテランの先生より卒直後の先生方のほうがこんなに高い。これはマイクロスコープを使っているからなんです。今、うちの教室でも積極的にマイクロスコープを使っていますが、我々がかつて肉眼で見ていたよりもはるかに高い確率で見落されていた根管を見つけることができています。図2は私の臨床での下顎の大臼歯の例なんですが、実は見落された根管がありました。図3は下顎の前歯で抜髄して痛みが取れず紹介された症例ですが、実際には見落された根管があったわけです。ベテランの先生方はここにもう1根管あるに違いない、と思って手さぐりでやっていたのですが、マイクロスコープを使うことによって「ここにある」というのがひとめでわかるんです。卒直後の人でも使い方をマスターすればわかります。そうすると、見落しがなくなり、成功率が格段にアップしていきます。高瀬各診療領域でのアプローチについてはいかがですか。澤田私は歯内治療の話しかできませんが、図4は以前の治療に和感があるという依頼で来院された患者さんですが、マイクロスコープで調べてみると、根尖に破折器具があるのを確認し、超音波を使って除去して、最終的に根充しました。根充を見ていただければわかるんですが、ほとんど無駄に歯質を削除していない状態です。これだけ見たら、この根管から除去したというのは多分わからないと思います。これはマイクロスコープの大きなメリットですね。図5は穿孔部の封鎖なんですが、研修医が穿孔してしまった症例です。穿孔部と実際の根管が本当に隣り合っていますから、穿孔部封鎖を確実にやるにはマイクロスコープがないと実際無理ですね。山本私がいま主に使っている歯内治療の領域では、穿孔、破折、亀裂の確認が6~7割を占めます。あとは補綴、の診査や処置、歯周治療、外科処置などですが、もちろんインプラントをなさっていればその分野でも使えますね。また、別に診療室だけで使わなくても技工に使ってもいいわけです。歯内治療では、「曲がった根管の奥まで見えるのか」という質問が出ると思いますが、よそで治らない難症例というのは何度も治療されて、大抵大きく根管拡大されていることが多いですから、意外と先の方までよく見えるんですね。また、異物除去では超音波スケーラーで取ることが多いと思いますが、超音波スケーラーのチップも歯を削ってしまうわけです。それがマイクロスコープ下だと本当にピンポイントで当てたいところだけに当てられるので、安全に除去できます。表1で示されている第4根管の存在も別に苦労することなく見つけられるわけです(図6)。簡単に見つけられるということは、チェアーサイドの治療時間が短くなるということで、それだけでも患者さんのメリットだと思います。図7は歯根破折の症例ですが、特に前歯部で1本抜歯し、メタルボンドでブリッジとなると、患者さんはかなり出費を必要とするわけです。そのときに、本当に割れているのか?という疑問は誰でもお持ちになる。特にいろいろ悩んでいらした患者さんというのは、歯科医師をすぐには信用しないという面がありますので、実際に破折していることを画像で見て、これなら抜歯も仕方がないと納得していただいたうえで抜歯するのと、歯医者の先生がそう言うから、というのでは、患者さんの納得度が違います。それだけで患者さんの信頼感を得やすいと思います。澤田それは大切ですよね。オペのときに破折を見つけることがあるんですが、患者さんに抜くという同意を得ていなければ抜けないので、とりあえず掻爬だけで終わりますよね。掻爬しているから、一時的にはよくなるんですが、原因が除去されていないので、必ず数ヵ月後に腫れてくるんです。それを前もって、「割れていました。数ヵ月後には悪くなって、腫れてきて、これはもう抜かなければいけませんよ」と言っておいて腫れてくるのと、そういうことがわからずに、「とりあえず掻爬しました。オペはうまくいきましたよ」と患者さんに言って、数ヵ月後に腫れてくるのと、同じことをやったはずなんですが、患者さんのイメージは全く違ってきますし、そのときに映像を見せていれば、「ああ、この先生はここまでやってくれたんだ」と、逆に感謝されますね。図8の症例ではX線写真を見た時点で私は破折を疑っていました。実際中を見てみますと、根尖のほうから破折してきているのですが、歯冠のところは全然割れていないんです。口腔内を患者さんに見せても見え違るところは割れていないので、患者さんは納得してくれません。こういったケースで患者さんを説得するためにはマイクロスコープで撮った映像が非常に効果を発揮します。映像を見せないで抜いてしまうと、患者さんには「あの歯科医院に行くと歯を抜かれた」、ちゃんと映像を見せて抜けば「抜いていただいた」ということになるのです。山本抜く場合も精神的にいいですよね。以前はこの歯は破折しているはずだと思っても、実際抜いて、それを見つけるまではドキドキしましたからね。高瀬次に、補綴分野での使い方をお願いいたします。山本補綴の場合、やはり形成と、印象のチェックに一番役立つと思います。ただ、形成の場合、5倍速のFGコントラとの併用というのがポイントじゃないかと思います。バーがぶれないで削れるという点が良いのですが、もうひとつ顕微鏡を使っていると、どうしても手の動きと見ている動きが違いますから、時々混乱することがあるんです。そんなときにすぐ止まるので安全ですね。図9は症状はあるけれど歯を削りたくないという患者さんの物を除去したところです。隣接面にがあると大きく歯を削ることになる場合が多いので、画像を見せて納得していた図41 女性52歳1 女性31歳図6図5図8図7根管拡大終了時<文献(3)より引用>右上根管拡大終了時<文献(4)より引用>矢印は6 第4根管を示す。途中でメインの根管に合流していることも顕微鏡で確認できる。歯冠側に破折線は認められないが、マイクロスコープで根管内を見ると根尖方向からの破折線が確認できる。上顎前歯に生じた亀裂の症状がある場合には抜歯になる可能性が高い根管後のX線写真下顎第二大臼歯。根尖部に破折ファイルが認められる。上顎右側側切歯遠い遠心部に穿孔。レジンにて穿孔部を封鎖し根管内にファイル試適。研修医による側方加圧根管。<文献(4)より引用>根管後のX線写真<文献(4)より引用>マイクロスコープ下で超音波チップ(CPRチップ)を用いて破折ファイル(矢印)を除去。1)マイクロエンドとは何か:澤田則宏、井澤常泰、須田英明the Quintessence 別冊「現代の根管治療の診断科学」71-76, 1999.2)歯内治療における外科用実体顕微鏡の使用法1.根管治療:澤田則宏、Syngcuk Kim 日本歯科評論No678, 171-178, 1999.3)Microendodonticsの世界:澤田則宏、須田英明Dental Magazine 第102巻26-29, 2001.4)マイクロエンドドンティクス-21世紀の新しい歯内療法-:澤田則宏、吉川剛正、須田英明歯界展望第97巻第2号331-339, 2001.文献図9 図10 図116 咬合痛があるためインレーを除去したところ。遠心隣接面のがインレー窩洞まで進行している。4-0縫合糸と通常の持針器、7-0縫合糸とマイクロニードルホルダー、大きさがかなり違う。4-0、7-0の縫合糸の太さの違い。F0を行って6日後、7-0縫合糸の周りにはほとんど炎症がない。抜歯後、治癒が早いだけでなく、痛みも少ない。だいたうえで形成を行いたいですね。澤田例えば初期カリエスがあることがマイクロスコープでわかったとします。今の段階で削るのは過剰切削になってしまうから、このままでもいいのではないか、ということがよくあると思うのですが、「虫歯になりかけているんですよ」というのをマイクロスコープで患者さんに見せたうえで、例えば3カ月後、半年後にもう一度来てくださいと言うと、患者さんは戻ってきてくれるということはありませんか。山本それは大いにありますね。そういう意味で動機づけにもなると思います。僕は定期検診ほど患者さんにとって安上がりでメリットの大きいものはないと思うのです。大きくになってから来院すると費用と時間がかかりますから。高瀬縫合にもマイクロスコープを活用されているということですが。山本図10は4 - 0と7-0の縫合糸の太さを比べたところです。図11はフラップ手術をやって6日後ですが、7- 0の糸を取ったら、ほとんど縫ってあった跡すらわからないぐらいに治っています。明らかに治癒が早いということが実感できます。患者さんの痛みも少ないですしね。澤田私もナイロン6 - 0の縫合糸に替えてから口内炎などがなくなって、患者さん自身も非常に快適になりました。マイクロスコープを使って、細い糸で縫合するメリットは十分にあると思います。高瀬最後に、マイクロスコープを使った診療のメリット、また、マイクロスコープを使うことによって生まれる患者さんへのメリットということをお願いします。山本患者さんのメリットと歯科医のメリット、両方共通する部分というと、やはり同じ画像、データを患者さんと共有できるという面が非常に大きいと思います。ですから、マイクロスコープにカメラとかビデオを標準装備してもいいんじゃないか、と思うぐらいですね。また、治療の精度もマイクロスコープを見るだけで自然とある程度上がっていってしまいます。切開も必要なところだけ切れば、縫合などの外科的侵襲が少なくなります。次に、症例の記録を保存することも大きなメリットになると思います。最後に、自分の過去の治療を見ると、もっと頑張らなきゃいけない、という刺激を与えてくれることですね。私が強調しておきたいのは、本当に使いこなすためには何が見えるのかではなく、何を見なければいけないのか、何を見たいのかを認識して使う必要があるということです。澤田マイクロスコープのメリットは、もちろんエンドの領域では色々有用性はあるんですが、開業医の先生にとっては、自分が見ている視野をもう一度、患者さんにも見せられるということにつきると思います。それは非常に大きなメリットです。「マイクロスコープを買うんだけれども、カメラがいるのか」ということをよく聞かれます。私は「先生、カメラは絶対欲しくなります。少なくとも後から付けられる機種を選んでください」といつも言っています。山本私も買うときに大いに悩みました(笑)。高瀬ありがとうございました。