DMR ディー・エム・アール

No.209 2004年7月1日発行
内科的う蝕治療のための新しい唾液検査法の活用
田上順次、北迫勇一、杜塚美千代

Download (PDF, 4.29MB)

内科的う 治療のための新しい唾液検査法の活用東京医科歯科大学大学院 摂 機能保存学講座 う 制御学分野 教授: 田上 順次 助手:北迫 勇一 杜塚 美千代 う と歯周病は歯科における2大疾患であり、わが国においても国民病といえる疾患である。う は8割を超える罹患率であり、感染症として捉えることと同時に、生活習慣病としての側面もある。多因子性疾患として認識すべきであるが、予防法もある程度確立されている。近年の口腔衛生に対する国民的な意識の高まりにより、う の発生はかなり抑制され、12歳児におけるDMFT指数は、長年の目標であった3以下となった。 このようにう の発生率が低下してくると、歯科界においては、患者の減少という危機意識が高まることになる。患者の受診傾向は、歯科疾患のリスクの高い若年者と高齢者に集中しており、典型的な逆W字型を示す(図1)。この受診率の低下する成人期にう や歯周病が症状がないまま進行しているのである。この時期の受診率を向上させることは、国民の口腔保健の向上に貢献するだけでなく、われわれにとっても歓迎すべきことである。 そのためのキーワードは、予防と審美、言い換えれば、ケアとQOLである。超高齢社会を迎え、一生きれいな歯で暮らしたいと願う人々は多いはずである。こうした人々の健康とQOLを維持、向上するための歯科のプログラムが必要とされているのではないだろうか。 予防できることがわかっていて、適切な予防処置を提供しなかったとして、患者がう に罹患したとする。このとき、その歯科医師に責任はないのであろうか? 最近の判例では、矯正治療中にう が発生したことについて、歯科医師に責任が問われている。さまざまう の発生は患者の責任か?人に優しい歯科診療を考えるデンタルをテーマに明るい情報をお届けします。  内科的う 治療のための  新しい唾液検査法の活用う の発生は患者の責任か?チェックバフによる唾液酸緩衝能評価の原理チェックバフによる測定手順チェックバフの特徴唾液酸緩衝能を評価する意義内科的う 治療のすすめ測定結果の活用法■商品紹介特集12,0001,6001,20080040000 1|45|910|1415|1920|2425|3435|4445|5455|6465|6970|7475|7980|8485以上New dental patients per 100,000 people図1 年代別にみた人口10万人あたりの歯科受診者数(厚生労働省)。   典型的な逆W字型を示す。成人の受診率を向上させる必要がある。1982年1996年な意見もあろうが、いわゆる不作為の罪として当然のように歯科医療提供者の責任が問われる時代がすぐそこに来ているという気がする。すなわち、なすべきことをなすべき立場にあるものが適切な指示、行動をとらなかったために生じた問題については責任が問われても仕方がないのである。 ことう に関しては、患者の自己管理に負うところが大きいために、う が生じた場合には、患者に責任を押し付けてきた。しかしながら、患者の口腔衛生意識の向上により、う や歯周病でなくても、定期的に歯科医院を受診する患者は確実に増加してきている。このような患者に対しては、う と歯周病を確実に予防することは、われわれ歯科医療従事者にとって重大な責任である。 定期的な検診と管理のプログラムを受け入れてくれる患者に対しては、大きな責任を負うことになるのである。たとえば定期健診の間の6ヶ月間にう が発生したとなれば、それは患者の責任ではなく、ある程度われわれの責任を問われても仕方がないであろう。 う 予防を責任を持って請け負うことは決してたやすいことではない。そのための何種類かのメニューを、いつでも準備しておかねばならない。このたび、画期的な唾液の検査法として、チェックバフ(堀場製作所製)というシステムが開発された。唾液の検査だけでう が予防できるものではないが、簡単に患者の口の中の情報を客観的に把握できる検査法である。何よりも患者の口腔衛生に対する関心を喚起するのに有効な方法であり、ここにその使用法、応用法を紹介する。“チェックバフ”開発にあたり、東京医科歯科大学う 制御学分野、小児歯科学分野、国立感染症研究所、堀場製作所が中心となり行ってきた研究結果について述べる。 東京医科歯科大学歯学部附属病院むし歯外来を訪れた患者109名から、食後2時間以上ならびに口腔清掃後1時間以上経過していることを確認した上で、刺激唾液を採取した。酸緩衝能評価には、0.5mLのサンプル唾液に0.1規定塩酸を10μLづつ滴下した場合のpH変化をハンディー型pHメーターにより測定する方法を用い、各々測定結果の比較検討を試みた。 その結果を図2に示す。酸の滴下量が20μL程度ではpH値に大きな変化は見られないし、また100μL 以上になるとほとんどが一定の低いpHを示すようになる。 各サンプルのpH変化の違いが顕著に見られるのは、酸の滴下量が30-80μLの間にあるときである。特に最大値から最小値までの幅の大きい部分で、サンプルを分類しやすい測定点ということで、50μLの塩酸を滴下したときを選択した。このpH値を、5.6以上、4.5 - 5.5、そして4.4以下の3群に分類した。これらの各群はそれぞれ、高緩衝能群、中等度群、低緩衝能群ということになり、う リスクでいえばそれぞれ、低リスク群、中等度群、高リスク群ということになる。 ストリップスを用いた比色法(CRTバッファー、イボクラービバデント社)による評価を比較対照とした。チェックバフによるpH値にもとづく唾液酸緩衝能ランク分け結果と、肉眼的比色法による判定結果との間に統計学的有意差を認めず、両者の判定結果はほぼ同様であることが確認された。 しかしながら、従来の肉眼的比色法では109症例中23症例(21%)にて不鮮明な呈色反応を認めた。すなわち、109症例すべてにおいて評価結果が完全に一致したわけではない(図3 -1, 2 , 3 )。いずれの方法がより正確だったのであろうか。判定の原理はいずれもpHの変化を基準にしていること、チェックバフでは、そのpHを直接測定していることを考えれば、答えは明白である。 以上のことから、本唾液酸緩衝能評価法を臨床上活用する場合には、塩酸を50μL滴下した場合のpH値を比較検討するだけで、各患者の唾液酸緩衝能を判定することが可能となる。また、比色法開発の上で比較対照とされた代表的唾液酸緩衝能試験:エリクソンテスト(塩酸を用いた酸滴下試験)の結果とも本試験結果のランク分けは一致している。すなわちチェックバフによる評価は、まさに唾液の酸緩衝能の定量的評価法としては、ゴールドスタンダードといえるものである。さらに本法は、従来チェックバフによる唾液酸緩衝能評価の原理内科的う 治療のための新しい唾液検査法の活用2図2 塩酸を滴下したときの唾液のpH変化8.07.06.05.04.03.02.0pH初期pH 50μL 0.1N塩酸滴下量酸緩衝能:強い酸緩衝能:普通酸緩衝能:弱い法よりも著しく簡便で迅速に結果の得られる方法である(図4)。 製品化に伴い、チェアサイドにて塩酸の使用を避け、使用する酸を食品添加物に指定されているより安全な有機酸へと変更した。これに伴い、塩酸を用いた場合との詳細な比較実験を経た上で、カリエスリスク判定に用いるpH値を、5.8以上、4.8 - 5.7、そして4.7以下と設定した。それぞれのグループは、基礎実験同様、高酸緩衝能群(低リスクグループ)、中等度、低酸緩衝能群(高リスクグループ)と分類することとした。 チェックバフによる唾液酸緩衝能評価の手順を図5に示す。チェックバフを構成する器具、付属品、消耗品は図6に示すとおりである。 評価の意義・安全性ならびに注意点について説明を行なう(図7)。単に「あなたの唾液のむし歯に対する抵抗力を調べてみましょう」といった言葉で済ませることもできる。唾液の採取に関しては、食後2時間以上ならびに歯磨き後1時間以上経過している状態が望ましい。しかし、このような制約を厳密に守れない場合が多いので、食後経過時間ならびに歯磨き後経過時間をメモしておけばよい。 唾液採取用ガムをかんでもらいながら、出てきた唾液(刺激唾液という)を採取する。この際、最初の30秒間に採取された唾液には、口腔内の食物残渣などの混入が懸念されるため、このときの唾液は紙コップ等に採取し廃棄する(図8)。その後、紙コップから付属シリンダーに持ちかえさせ(図9)、引き続き5分間唾液を採取する(図10)。 採取した唾液量をシリンダー側面に刻まれたメモリで読み取り、1分間唾液分泌量を計算する(図11)。1分間唾液分泌量が0.7mL/分以上を適量と判断する。 付属唾液採取用ピペットを用いて、チェックバフによる測定手順3図3 比色法で、緩衝能が、高(1)、中(2)、低(3)と判定された唾液のpH測定結果。いずれのグループでもわずかだか結果が一致しない例がある。図5 チェックバフによる評価の手順図4 ハンディ型pHメータによる唾液酸緩衝能評価法と従来法(2種)との比較酸緩衝能ランク1 2 01 0 08 06 04 02 00(人)酸緩衝能:比色法 medium酸緩衝能ランク2 01 51 050(人)high(≧pH5.6)  medium(pH4.5~5.5) low(≦pH4.4)酸緩衝能:比色法 low酸緩衝能ランク2 01 51 050(人)high(≧pH5.6) medium(pH4.5~5.5) low(≦pH4.4)ハンディー型pHメーターを用いた唾液酸緩衝能評価法塩酸50μL滴下した場合のpH変化から3群に分類できる強い(≧pH5.6)強い(≧pH5.6)普通(pH4.5~5.5)普通(pH4.5~5.5)弱い(≦pH4.4)弱い(≦pH4.4)Ericsson's test高価な実験施設高度な実験手技低コストチェアーサイド使用可非定量的比色法過去の代表的な唾液酸緩衝能評価における分類Step 1:医療面接Step 2:唾液採取Step 3:唾液分泌量測定Step 4:初期pH値測定Step 5:酸負荷液滴下Step 6:唾液酸緩衝能評価Step 7:結果報告&指導チェックバフフローチャート図7 唾液酸緩衝能評価に関する簡単な説明 図8 最初の30秒間は唾液を紙コップに採取し廃棄図9 続いて採取用容器に変える 図10 5分間唾液を採取する図6 チェックバフを構成する器材、付属品、消耗品シリンダーガム 酸負荷液チェックバフ本体酸緩衝能:比色法 highhigh(≧pH5.6) medium(pH4.5~5.5) low(≦pH4.4)成 人高 齢成 人高 齢成 人高 齢唾液を採取する。採取量は一定になるよう固定されている。唾液をpHメーターのセンサー上にのせ、蓋をした後、唾液のpHを測定する。この値は、初期pH値として記録する(図12)。 この、初期pHを測定できることも、チェックバフの特徴であり、利点である。「あなたの唾液のペーハーって、どのくらいか知ってますか?」といった問いかけとともに、初期pHを患者に示すことは、自分自信の唾液についてまた健康についての関心を喚起するのに有効である。後で示す、酸混合後のpHの値に対する関心も大いに高まることになる。 次に、付属の酸負荷液を開封し、センサー上のサンプル唾液と混和する(図13)。酸負荷液容器の開封については、取扱説明書記載の注意事項を参考にしていただきたい。わずかに液が容器内に残るが、この量については十分に検査が繰り返された上で、誤差の範囲内であることが確認済みであるので、さほど神経質になることはない。混和はチェックバフ本体を水平に揺り動かせば十分であるが、別売りの振盪器「チェックバフオートスウィング」を用いると、より短時間かつ均一に混和することができる(図14)。おおよそ30秒混和後の最終pH値を読み取り、この値から、各患者の唾液酸緩衝能を3段階(強い、普通、弱い)で評価し(図15)、記録する(図16)。 実際に患者に測定の操作を見せながら唾液の情報や、むし歯に関する情報などを提供することは、きわめて効果的で、患者の口腔衛生に対する関心は非常に高まる。通常、こういうときに患者からさまざまな質問が発せられるようになり、一方通行的になりがちな、歯科医と患者との関係が、双方向的になる。こうした意味において、本検査法は、検査結果の意味もさることながら、患者との距離を縮めるものとなり、より親密な関係を構築することの意味も非常に大きい。 唾液の採取から測定は、患者が来院時に待合室において、歯科医院のスタッフにより行うことも可能であり、チェアータイムをなくすことも可能であるし、歯科医師が測定に時間を費やす必要もない。 サンプル廃棄ならびにメンテナンスも容易で、通常は測定後センサーならびに同蓋内面を、スリーウェイシリンジにて清掃し、本体を軽く振って水分を切り、蓋をして保管する。また、唾液が直接触れるセンサー部分を消毒する場合は、アルコールを軽く噴霧するか、グルタラール消毒剤に短時間浸漬することも可能である(図17)。消毒後は、充分に水洗しておく。 チェックバフによる検査の準備としては、医院の診察開始前などに、装置の精度管理の一環として、付属pH標準液を用いたpH校正を行う。この操作も簡単で、約1分で完了する。この校正は、必ずしも毎日行う必要はない。 この様に、“チェックバフ”による唾液酸緩衝能評価は、唾液採取から唾液酸緩衝能評価まで平均10分以内に終了し、一回あたりのコストも240円(消耗品のみ:市販価格)で、市販ストリップス(平均市販価格:525円/回)と比較して安価である。内科的う 治療のための新しい唾液検査法の活用4図11 分泌量を目盛りから読み取り、1分あたりの唾液分泌量を算出する。図12 ピペットで唾液を採取し、センサー部に滴下して、pH測定する図13 酸負荷液をセンサー部に入れる図14 唾液と負荷液とを十分に混和する図15 pH値による酸緩衝能の分類唾液酸緩衝能評価pH 5.8以上  :強いp H 4 . 8 -- p H 5 . 7 : 普通pH 4.7以下  :弱い図16 記録紙に記録する図17 測定装置の消毒0.7mL/min 以上:適量0.7mL/min 以下:少量保険制度上、こうした検査に治療費を算定しにくいが、算定無しで行ったとしても、その効果はそれ以上のものが期待できよう。 チェックバフは、唾液の酸緩衝能を測定するシステムである。酸緩衝能といえば、前述の「CRTバッファー」という製品が世界的に広く普及している。CRTバッファーは、比色法、すなわちストリップの先端に付着した呈色部分の色の変化をもとに、酸緩衝能の違いを判定する製品である(図18)。複雑なpHの変化を色で判定するという方法は、時間もかからず、きわめて簡便な優れた方法である。患者に示して説明をする際にも、非常にわかりやすい。う のリスク評価や患者の管理に果たす本製品の役割は非常に大きく、う 予防プログラムの確立にも多大な貢献をしてきた製品である。 基本的に、チェックバフは比色法によるC R T バッファーと同じく、唾液の酸緩衝能を測定するシステムであるが、両者の違いを表1に示してみた。もっとも大きな違いは、チェックバフは唾液のpHあるいは、酸と混和した後のpHを、直接pHメータで測定する点である。 pHの測定といえば、ガラス電極などを用いた測定器を想像するものである。しかしチェックバフに使用するpHメータは、簡易型のデジタルpHメータであり、わずか1滴の液体があれば十分で、約10秒間程度でpH測定が完了する。堀場製作所が世界に誇る独自の測定技術の一つを応用したものである。 比色法は簡便性、理解しやすさという点で非常に優れた製品であるが、比色性自体の問題である、判定のあいまいさ、難しさが挙げられる。呈色部分の色がにじんだり、色見本と微妙に異なったりすることも多い。さらに時間とともに色が変化してしまうといった問題も指摘されている。 一方チェックバフでは、pH値を直接測定するので、測定結果は数値として得ることができる。チェックバフのシステム確立のための研究では、比色法の結果と高い相関性が得られていた。しかしながら、わずかの検体では、評価結果に差が生じていた。どちらの結果がより信頼性の高いものであるかは明白である。 測定に要する時間の点では、チェックバフは約10秒間、さらに酸性の負荷液を混和する時間(約30秒間)を含めてもストリップによる比色法よりもはるかに時間が短い。さらに、比色法では採取した唾液自体のpHを測定することはできない。 さらに小児における酸緩衝能は非常に高く、酸負荷液を混和してもほとんどの唾液サンプルは、高い値を示す(図19)。比色法では、ほとんどの小児は低リスクグループということになる。しかしながら小児の場合には、唾液の酸緩衝能は高いことを前提に、その中でのハイリスクグループを検知することも重要である。チェックバフにおいては酸負荷液を成人の場合の2倍量使用することで、平均的な場合よりも低い唾液の酸緩衝能を示す小児を把握することも一つの方法と考えている。 チェックバフは測定に必要な費用の点でも従来の方法よりも優れている。測定器はpHメータであるため、どのような液体でもそのpHを測定できることも利点である。コーラなどの炭酸飲料、ジュース、乳酸飲料などのpHを患者に示すだけでも、非常に効果的な口腔衛生指導となる。さらに学校検診や、集団での口腔衛生指導における本器の活用も期待されている(図20)。 カリエスリスクの主な因子として、①う 細菌に関するもの②唾液や歯の質に関するもの③生活習慣に関するものの3つに大別することができる。チェックバフの特徴唾液酸緩衝能を評価する意義5図18 比色法による酸緩衝能評価用ストリップスpHチェックバフ比 色 法秀優優優優優高いなし240円/回525円/回約30秒5分精度 簡便性 所要時間 わかりやすさ 応用性 費 用表1 チェックバフと比色法による従来製品との比較 図19 小児の唾液酸緩衝能評価結果8.07.06.05.04.03.02.0初期pH 50μL 80μL 0.1N塩酸添加量酸緩衝能:強い酸緩衝能:普通酸緩衝能:弱い う 細菌については、口腔内のう 原因菌の数、付着能、酸産生能などが重要な因子となる。唾液と歯に関しては、唾液の酸緩衝能、分泌量と歯質抵抗力が具体的に挙げられる。生活習慣に関する具体的な因子としては、加齢、全身疾患、フッ化物の使用有無、歯列状況、DMF数、生活習慣等が挙げられる。これらの因子により口腔内環境が形成され、う の進行・停滞・再石灰化が繰り返されている(図21)。 このようにう は感染症であると同時に、生活習慣病としての側面もあるために、典型的な多因子性疾患ととらえることができる。このことから、う は十分に予防可能な疾患であるということもいえる。 上記の3つのリスク因子群のうち、う 細菌に対するアプローチはもっとも効果的なう 予防法である。う 細菌に関する検査法も普及しつつあり、患者の口腔内の状態を把握するのに非常に重要な情報を得ることができる。その結果を利用しながら、花田らの提唱する3 D S ( Dental Drug DeliverySystem)を適用することは、非常に効果的である。この方法が広く普及することで、劇的なう 予防効果が期待される。しかしながら、3DSの必要性を患者やその家族に理解させ、費用や手間を受け入れてもらうことは、それほど容易ではない。細菌検査自体にも同じことが言えるかもしれない。患者の口腔衛生に対する高い意識がないと普及しにくいという点では、ほかのう 予防プログラムにおいても共通の問題点である。 生活習慣に関するリスク因子の改善については、患者が自身の口腔内環境の改善の必要性を理解すれば、かなり効果が期待できる。しかし、ここでも患者の意識改革は前提条件となる。 唾液や歯の抵抗力に関しては、残念ながらその改善はそれほど容易ではない。それでも唾液分泌量を向上させる手段がないわけでなく、歯質抵抗力の向上の手段も確立されている。しかしながら、唾液の酸緩衝能については、その重要性は指摘されているものの、酸緩衝能を向上あるいは改善する具体的な手段は確立されていない。 それでは唾液の酸緩衝能を評価する意味はないのであろうか?唾液の分泌量と酸緩衝能の評価は、細菌検査と比較して、はるかに簡便であり、また結果がその場で得られるという利点がある。そのため、患者に対するコミュニケーションの材料として非常に優れている。さらに、誰しも自分の唾液の力が数値化されて示されることに、大きな興味を示すのは、体温、血圧、身長、体重、コレステロール値、あるいは知能指数などと同様といえるかもしれない。 自分の唾液に興味を抱いてくれさえすれば、う 予防の話にも大いに興味を示してくれることになる。酸緩衝能が低ければ、どういう方策が有効か、必ず自分から質問を発するものである。そこで、細菌の検査や、3DSの説明などに入ってゆくことができるのである。 一般に検査の目的は、個々の患者の状況を正確に把握することである。これはより精密な検査により、より正確な情報が得られる。当然、設備、費用、手間、時間もかかることになる。したがって、患者によっては不要、あるいは無駄な検査であることも多くなる。カリエスリスク評価のためにさまざまな検査法が開発されているが、すべての検査をすべての患者に行うには、患者にも、歯科医院にも負担が大きく、効果もそれほど期待できない。 検査の持つ意味で、もうひとつの重要な目的は、スクリーニングである。この目的のための検査法は、簡便性、経済性、迅速性が要求される。その点で、唾液の分泌量と酸緩衝能の評価というのは、う 予防において、スクリーニング目的、さらには患者の検査への導入として、非常に有効な検査である。 一回あたりの費用が安く、簡便なチェックバフによる唾液の酸緩衝能評価は、歯科医院に訪れる無歯顎者をのぞく、すべての患者に対して行うべきプログラムではないだろうか。内科医では、通常診察室に入る前に、体温測定を行う。場合によっては血圧測定、尿採取などが行われる。その結果を元に問診、触診、血液検査、画像診断などが行われる。 それをもとに内科医が行うのは、診断、薬剤の処方、食生活、生活習内科的う 治療のすすめ6図20 各種飲料製品のpH測定にも応用可能 図21 主なカリエスリスク因子主なカリエスリスク因子う 原因菌ミュータンスレンサ球菌乳酸桿菌など付着能・酸産生能う 進行・停滞感染・診断・予防唾液酸緩衝能唾液分泌量歯質抵抗力加齢全身疾患・投薬フッ化物使用有無・頻度歯列状況・DMF数生活習慣慣の指導である。実は、歯科医の仕事も内科医のような形態をとることは可能なのである。 う に関しては以下のように3態として考えるべきではないだろうか(図22)。プラークが付着している患者は、口腔内に病原菌が定着していることを意味し、保菌者であり、発症していないだけの状態である。発症(脱灰)しないためのプログラム、すなわちう 予防のプログラムを提供することで、う による歯質の欠損の発生を防ぐことができる。 初期う を有する患者は、まぎれもなくう という疾患により、硬組織の溶解という症状を発症した患者である。この場合にも有効な手段を講じることで、症状は改善される。すなわち再石灰化により歯を健全な状態に戻すことができるのである。 さらに進行した症状、すなわちう窩の形成を示す患者に対しては、抜歯、抜髄、感染根管治療、修復処置などの手段が講じられる。これらは外科的なう 治療と考えるべきである。う の減少が報告されているが、これらはDMF T指数により示されている。DMFT指数は、外科的な処置を必要とするう を意味する。しかし、人々の口腔内からう 細菌が消滅したわけではなく、その他のリスク因子が改善されることによって、発症が抑制されているだけである。とすれば、う 罹患者、感染者は決してなくならないし、ほとんどの人々が内科的なう 治療(図23)の対象者である。このような人々に、定期的な歯科受診の習慣を普及してゆくために、チェックバフのような検査は、きわめて効果的と思われる。 測定結果は、専用の記録用紙に記録し患者に保管してもらう(図24)。用紙には、う に関する情報も記載されている(図25)ので、患者の意識の向上に有効であり、患者の家族や知人などに対する情報の普及にも役立つ。検査記録として、歯科医院でも結果を記録しておく。 初診時、メンテナンス時、定期的な検診で来院したときなどに検査を行うのが、一般的と思われる。体調の変化が見られるときの結果や、経年的な記録を分析することで、将来、唾液からさまざまな全身的な情報を得ることができるようになるかもしれない。 酸緩衝能が高い患者には、他のカリエスリスクに対する対応を説明することで、う 予防に対する関心を高めることができる。 酸緩衝能が低い患者には、より強く注意を促すとともに、定期的なリコールの間隔を短くすることや、細菌に対する積極的なアプローチも行う(図26)。 酸緩衝能の日内変動や、経年的変化、全身状態との関連など、pH測定の煩雑さのために、これまでに情報はほとんどない。したがって、現在のところ、酸緩衝能を改善する方策もないのが現状である。より多くの臨床家に酸緩衝能を測定し記録してもらうことで、今後さまざまな情報が得られることが期待される。 患者のう 予防への関心が高まれば、日常生活の中で実行可能なプログラムも多い。特に生活習慣の改善には患者の意識におうところが大きい。 さらにガムによるう 予防効果に関しても、社会の関心は高いが、正しい情報が普及しているとはいえない。歯磨き剤にしても、マーケットには多種多様な製品があふれている。歯科医師あるいは歯科衛生士として、それぞれにリスクの異なる患者に適切な情報を提供することが求められているのではないだろうか。測定結果の活用法7図22 う の3態1:プラークが付着した状態:感染2:再石灰化可能な初期う (脱灰)が生じた状態:発症3:う窩の形成された状態:発症、機能障害を伴うので、  修復処置が必要図23 内科的う 治療、図22の1、2のう に対して適用される図24 記録紙への結果の記入 図25 記録紙に記載されている情報1.2.3.問診、診査各種検査リスク評価診断治療方針の決定歯科衛生士プロケアの実施ホームケアの指導歯 科 医患  者プラーク初期う歯240-210506-743506-744506-745240-331240-220240-333240-260240-335240-330240-332240-334<クリアドライ>20袋入 1袋24粒入98粒入98粒入×8<オレンジ&バナナ>20袋入 1袋24粒入98粒入98粒入×8<フレッシュライム>20袋入 1袋24粒入98粒入98粒入×8 バナナ レモンティー ミント唾液酸緩衝能測定セットチェックバフセット製造 株式会社堀場製作所振盪器チェックバフ オートスウィング製造 株式会社堀場製作所デンタルガムポスカム(POsCAM)特定保健用食品製造・発売 江崎グリコ株式会社フッ化物配合ジェルDENT.チェック. アップ ジェル医薬部外品製造 ライオン歯科材株式会社247-001247-100商 品 紹 介 もはや「歯磨き剤は?」と聞かれて、「何でもいいですよ」という時代ではないだろう。これらの製品開発には非常に多くの優秀な科学者が努力を続けており、その結晶としての製品がある。口腔内環境を改善し、酸緩衝能を上昇させるガムがあることがどれだけ知られているだろうか(図27)。 歯磨き剤に添加されるフッ素濃度に関する国内規制のもとで、口腔内のフッ素濃度を上昇させるために、すばらしい工夫がなされていること(図28)を、もっと患者に知らせないといけないのではないだろうか。 プロとしての情報が提供できるよう、これらの情報は絶えず収集して整理しておく必要がある。1)歯科にとって健康増進法施行の意味とは  -瀧口徹歯科保健課長に聞く、歯界展望、vol.  101 No. 5, 925-928, 20032) Tenovuo J: Salivary parameters of relevance  for assessing caries activity in individuals and  populations. Community Dent Oral Epidemiol  1997; 25: 82-86.3)北迫勇一, 杜塚美千代, 野村聡、田上順次. 簡便  で低コストのう リスク診断法―ハンディー型  pHメーターを用いた唾液酸緩衝能検査, デンタ  ルダイヤモンド, 2003; 28(12):72-76.4)武内博朗:バイオフィルム感染症に対する3DS  の意義とPMTCでの位置付け、デンタルダイヤ  モンド、26(6)、30~33、2001.5)武内博朗、金子昇、野村義明、花田信弘:う   のリスク診断 唾液検査によってリスクはど  こまでわかるか、別冊the Quintessence YEAR  BOOK、106~107、2003.6)和田育男、宮崎勝巳:唾液分泌低下をきたす  薬剤の機序論、歯界展望、103(1)、57~64、  2004.参考文献●標準価格の後の6ケタの数字は商品コードです。●掲載商品は予告なく仕様変更することがありますので予めご了承ください。●掲載商品の標準価格は、2004年6月20日現在のものです。標準価格には、消費税等は含まれておりません。●ご使用に際しましては、製品説明を必ずお読みください。デンタル・マンスリーレポート No.209 2004年7月1日発行PUB No. SPC206.460-1-209.0406.83,000 SG-SU編集・発行 DMR編集室www.dental-plaza.com●自然環境を考えて再生紙を使用しています。東京本社 東京都台東区上野2-11-15 〒110-8513 TEL:03-3834-6161大阪本社 大阪府吹田市垂水町3-33-18 〒564-8650 TEL:06-6380-2525内科的う 治療のための新しい唾液検査法の活用8図26 リスクに応じて患者への対処法は変化するセルフケア用フッ化物配合ジェル商品名対象有効成分甘味剤Check-Up gel バナナ幼児 3~5歳NaF(500ppmF)-キシリトールCheck-Up gel レモンティーティーン 8~15歳NaF(950ppmF)-キシリトールCheck-Up gel ミント成人NaF(950ppmF)塩化セチルピリジニウム(CPC)キシリトール(ターゲット年齢)フッ化物抗菌剤図27 口腔内の酸緩衝能を向上させるためのガム図28 口腔内のフッ素濃度を高めるための歯磨き剤新しい機能性素材「POs-Ca」(リン酸化オリゴ糖カルシウム)を関与成分とするポスカムは、ヒト唾液の能力を評価することから商品設計した全く新しいデンタルガム製品である。(POs-Ca+キシリトール55%配合)う 治療へのう リスク評価の活用う リスク評価酸緩衝能 高い経過観察 修復処置酸緩衝能 中等度・低い予防処置う リスク改善再評価メンテナンス歯科医院向けポスカム[クリアドライ]ボトルタイプ パウチタイプ[オレンジ&バナナ]ボトルタイプ パウチタイプ[フレッシュライム]ボトルタイプ パウチタイプ

DMR

モリタ友の会 セミナー情報

セミナー検索はこちら