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No.211 2008年4月1日発行

歯科医院に求められる“経営感覚”と“経営技術”

澤泉千加良、寶谷光教、山岸弘子

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歯科医院に求められる
“経営感覚”と“経営技術”

  • 院長先生に求められる経営感覚
    ――歯科医として、経営者として求められる“表現技術”
  • 歯科医院スタッフ マナー“べからず”集
  • クインテッセンス出版の
    歯科医院経営実践マニュアルシリーズ
  • 問題解決技術を身につけて医院の経営改善に結びつける

院長先生に求められる
経営感覚
― 歯科医として、経営者として
求められる“表現技術”

(有)ファイナンシャルプラス 代表取締役
澤泉 千加良(さわいずみ ちから)

主宰する「トップ1%歯科医院倶楽部」会員歯科医院と「歯科医院サポート会計事務所 .net」参加会計事務所の顧問先歯科医院の経営サポートを行う。著書に『紹介・口コミで患者さんは絶対増える』『患者さんを増やす仕組みづくり』(共にクインテッセンス出版)がある。現在、モリタメールマガジンで『澤泉式“勝ち組歯医者”の経営術』、モリタデンタルマガジンで『DENTALCLINIC HOMEPAGE』を連載中。

コンセプトにもとづいた医院経営を!

医療機関である歯科医院は、長期安定的に地域の人たちに「歯科医療」を提供し続けていかなければなりません。ですから、「歯科医院」の院長先生は、歯科医院を「開業」するだけでなく「経営」していくことが大事なのです。そのため、院長先生が歯科医院を経営していく上で、経営者としての「経営感覚」を持つことは必須であり、その「経営感覚」も、企業とは違う「医療機関」の経営者としての「経営感覚」が求められます。
“医療機関として、長期安定的に、地域の人たちに対して歯科医療を提供し続け、地域の人たちの健康生活に貢献する”――この想いを実現するためには、歯科医院の経営は「良好な経営状態の継続」が第一条件です。
「良好な経営状態の継続」をするには、その場その場の物事・課題に対処するために時間やお金を投資する、治療的な感覚の「治療経営感覚」ではなく、将来のためにあらかじめ時間やお金を投資していく、予防的な感覚の「予防経営感覚」を身につけることが大切です。予防経営感覚とは「コンセプトにもとづいた歯科医院経営を行う」という経営姿勢です。つまり、「歯科医院のコンセプト」をつくり、スタッフはもちろん、患者さんなどの多くの人の力を、「コンセプトの実現」というゴールに向かって導いていき、「歯科医院経営の“善循環”をつくる」という経営方法です。

医院経営に必要な 5 つの経営感覚

  • (1)“職人歯科医”――美点とその限界!
    “職人歯科医”という言葉をよく聞きます。歯科医師という専門職には、「極めていく」「クオリティを追求する」という「職人気質」はとても大切な姿勢であり、大事にしなければなりません。ただ、今日の歯科界の状況は、「職人としての歯科医」だけでは限界にきており、歯科医院が患者さんに「最良の歯科医療」を提供していくために必要なたくさんの分野を統合する「経営者」を必要としてきているのです。
    それは、「治療」と「予防」に代表されるように、患者さんの健康生活維持に貢献するために必要な歯科医療が増えたこと、患者さんが歯科医院に求めるもの、期待するクオリティ、健康に対する意識、歯科医院を選択する行動が変化してきたからです。この変化に対応して、歯科医院が「最良の歯科医療」を患者さんに提供していくためには、関連する多くの分野の「職人」をまとめて、「コンセプトの実現」という一つの方向に導いていく、「経営者」という「職人」になることが大切なのです。
  • (2)経営感覚なしでは新患者も増えない、既存患者は離れる
    「患者さんのためになること」「患者さんの健康維持・増進に役立つこと」などの新しい取り組みを行って、「常に成長している歯科医院」「常に変化している歯科医院」と、そうでない歯科医院の 2 つの歯科医院が近くにあったとき、「患者さんは、どちらの歯科医院に行きたいと思うか?」「患者さんは、友人や家族など大切な人から歯科医院の紹介を頼まれたとき、どちらの歯科医院を紹介するか?」答えは容易に想像がつくと思います。ですから、「新規の患者さんに来院してもらうため」「患者さんとの信頼関係を育てていくため」には、患者さんのために「常に成長している歯科医院」「常に変化している歯科医院」であることを、既存の患者さんや周りの人たちに、目に見えるように表現することが大切です。「経営者は表現者」という言葉があります。歯科医院の経営者である院長先生には、「自分のこと」「歯科医院のこと」「目指していること」を、常に周りに表現する――このことが強く求められています。
  • (3) スタッフとの関わり方にも経営感覚を
    一般企業と比べて小規模での経営が多い歯科医院で働くスタッフは「小規模なところで働く不安」を抱えていがちです。院長先生は、その不安を払拭し、なおかつスタッフに夢を提示しなければなりません。
    そのため、「歯科医院のコンセプト」をつくり、スタッフに表現することで、仕事の判断基準・行動基準を示し、迷わせないこと。「歯科医院のコンセプト」というゴールを表現して、歯科医院がすすむ方向を示し、自分がすすんでいく方向を具体的にイメージさせてあげること。「患者さんのために、常に成長している歯科医院であること」をスタッフにも表現して、自分が働いている歯科医院への安心感を持たせてあげることが、経営者として大切な感覚です。
  • (4)すすむIT化に対応した経営感覚を
    医院の経営を安定させていくには、「紹介」「リピート率(リコール率)」「1 人当たり単価(自費診療選択率)」などをアップさせていくことが不可欠です。そのためには、インターネットの世界への「ホームページ歯科医院」という「分院」開業をし、ビジュアルソフトによる患者さんへの説明など、ITを積極的に活用して、「患者さんとの新しい時間・接点」を創り、活用するセンスが求められます。
  • (5) 経営数字 ここだけは押さえよう!
    歯科医院と患者さんとの「信頼」の強さが現れる「リコール率」「自費診療選択率」「紹介患者数」は、「信頼のバロメーター」として重要数字です。
    また、「新規患者数」「紹介患者数」は、患者さんをはじめ周りの人たちに「歯科医院のコンセプトが伝わっているか」「共感していただいているか」を判断する「コンセプト実現のバロメーター」のチェック数字であり、経営者として目を離せません。

問題解決技術を身につけて
医院の経営改善に結びつける

(株)デンタル・マーケティング代表取締役
寶谷 光教(ほうや みつのり)

大学卒業後、メーカー勤務を経て、2000 年から船井総合研究所にて経営コンサルティング活動に従事し、2005 年に株式会社デンタル・マーケティング設立。現在、同社代表取締役。指導先の歯科医院は数年間で 100を超えており、多数の成功事例を作ってきた歯科医院経営専門のトップコンサルタント。(株)モリタ主催の「真剣ゼミ」のメイン講師として著名。

歯科医院の経営にも戦略思考を

歯科医院にとって現状の経営環境は、今までに経験したことのない変化の激しい時代を迎えています。こうした環境下では、歯科医院の経営にも戦略的思考と経営改善技術を取り入れる必要があります。
しかし、経営者である院長先生が、時間の多くを診療やスタッフ管理に奪われてしまっては、重要な経営判断のタイミングを見誤る可能性が生じます。変化の時代であるからこそ、経営者にしかできない判断に費やす時間を重視しなければなりません。
そこで、あなたの医院が、現在、戦略的経営を行っているかどうかを、次の質問項目で確認してみましょう。

  • 10年後にどんな歯科医院でありたいかを検討し、経営計画書を作成しているか?
  • その時の売上規模・利益・組織体制・拠点数などをイメージできているか?
  • 目標を実現するためのギャップは何なのかを検討できているか?
  • 今年の売上計画・利益計画・設備計画・プロモーション計画を立てているか?
  • 他の歯科医院と比較して優位性の高い自院の特長を3点あげることができるか?

(YES が2以下であれば、成り行き経営といわざるを得ません。長期・中期・短期で経営を戦略的に検討する必要があります)
現状のような変化の激しい環境だからこそ、院長はもとよりすべてのスタッフがすすむべき方向(普遍的な経営の地図)を共有しながら、現在の自分たちのポジションを的確に把握(現状分析)し、外部変化に即応することが重要です。
ここでは、歯科業界においても重要性が認識されはじめた戦略的経営を推進する上で、経営課題を効果的に解決するためのプロセスについて、具体的に解説していきます。

問題解決・経営改善の7つのプロセス

問題解決・経営改善をすすめるためには、大きく分けて右図のような7つのプロセスを踏むことが重要です。

  1. あるべき姿をイメージする
    → 院長の考える「あるべき医院像(経営目的や経営目標)」と現状を比較した際のギャップが「問題のある状態」です。
  2. そのためのギャップを知る
    → たとえば、年間売上目標が8千万円、現状の売上が7千万円であれば、そこに解決すべき1千万円のギャップを埋める対策が必要です。
  3. ギャップを埋めるための課題を発見する
    → 1千万円のギャップが発生する問題点は何かを、さまざまな角度から検証します。「売上が落ちている」とか「自費が下がっている」というような短絡的な課題抽出では、最適な課題抽出とはいえません。
  4. 課題を特定する
    → 昨年同月よりも、来院患者数が少ないのであれば、新患数の減少なのか、再診数の減少なのか、月の来院回数の減少なのか、といった観点での検証が必要です。月来院回数の減少であれば、アポイントの空き時間やキャンセル数に問題があることが予想され、治療の内容ごと、メインテナンスなどの処置別で見ると、さらに問題の真の原因に近づくことができます。
  5. 具体的な解決策を決定する
    → 抽出された原因は、単一的であることは少なく、いくつかの要因が複雑に絡みあっている場合がほとんどです。この段階では、「Why」を繰り返すことで、顕在化していない真の原因を追求していきます。
  6. 問題解決の手順を決める
    → 解決手順を検討する場合には、誰が担当するのか、どれくらいの時間を要するのか、取り組むことによるリスクはどれくらいあるのか、コストはどれくらいかかるのか......というような点に配慮しながら決定していきます。
  7. フォローアップを推進する
    → 問題解決・経営改善に取り組むにあたっては、院長のフォローが不可欠。スタッフのモチベーションを高めるにも、取り組みの精度を上げるためにも、院長のフォローがキーになります。

歯科医院での
戦略的課題解決プロセス

  1. あるべき姿をイメージする
  2. そのためのギャップを知る
  3. ギャップを埋めるための課題を発見する
  4. 課題を特定する
  5. 具体的な解決策を決定する
  6. 問題解決の手順を決める
  7. フォローアップを推進する

歯科医院の経営改善にあたって注意すべき点は、プロセスごとに必要となる取り組みを軽視して、顕在化した課題に対してのみ場当たり的に対処し、コンセプトや目的性のない短期的視点の経営に陥ることです。
これからの歯科医院には、戦略的な思考が欠かせません。自院のあるべき 10 年後の姿をイメージし、そのイメージに到達するためには、財務的な課題は何か、来院者となるターゲットは適切か、サービスレベルは適切か、業務プロセスでの改善事項はなにか、人材についてはどうか......など、経営改善のフレームワークをもちながら、効果的に改善をすすめる必要があります。ちょっとした部分から戦略的な思考を取り入れることで、驚くほど効果的に経営改善が可能となります。

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