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No.218 2011年4月1日発行

Er: YAGレーザーによる歯石除去と菌血症防止

新潟大学大学院医歯学総合研究科 歯周診断・再建学分野 小松康高、吉江弘正

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Er: YAGレーザーによる
歯石除去と菌血症防止

新潟大学大学院医歯学総合研究科 歯周診断・再建学分野小松康高、吉江弘正

■歯科保険改定で注目を浴びている
 Er: YAGレーザー

平成22年度の歯科保険改定におきまして「歯周外科手術時の明視下におけるレーザーを用いた歯石除去等に関わる加算」が新規導入されました。
ここでは、エルビウムヤグ(以下Er: YAG)レーザーによるスケーリング・ルートプレーニング(SRP)の症例紹介とEr: YAGレーザー治療における注意点について述べていきます。また、歯石除去にともなう菌血症とその防止策としてのEr: YAGレーザー利用についての臨床研究を紹介します。
なお、本稿では、Er : YAGレーザーによるSRPをレーザーSRPと称することとしました。

Er: YAGレーザー(アーウィンアドベール)
  • ●一般的名称 エルビウム・ヤグレーザー
  • ●販売名 アーウィン アドベール
  • ●医療機器承認番号 21500BZZ00720000
  • ●医療機器の分類 高度管理医療機器(クラスⅢ)特定保守管理医療機器/設置管理医療機器
  • ●製造販売・製造
    株式会社モリタ製作所 京都府京都市伏見区東浜南町680

Er: YAGレーザーによるSRP の効果

歯周炎はPorphyromonas gingivalisなどの歯周病原細菌による感染症であり、生体の免疫応答の結果、歯周ポケット形成、付着の喪失、そして歯槽骨の吸収が起こります。
歯周炎の治療は、これまでハンドスケーラーによるSRPが主体的に行われてきました。しかし、ハンドスケーラーによる治療は時間や回数がかかり、術者、患者さんの負担が大きく、根分岐部、歯根面陥凹部、骨縁下欠損部といった解剖学的にアクセスが困難な部位での限界がありました。そのような場合、抗菌薬の併用療法も行われてきましたが、副作用のこともあり問題がありました1)、2)
Er: YAGレーザーは水に特異的に吸収されるため、軟組織のみでなく、他の歯科用レーザーで不可能であった硬組織への応用が可能なことが特徴で、歯石除去や歯周外科時の骨切除・整形などへの応用が可能です。
論文的にもレーザーSRPは従来法と比較して同等の効果があり、またEr: YAGレーザーの熱作用による殺菌効果や細胞の活性化作用もあるとされ、炎症の軽減、治癒、再生に有利に作用すると考えられています。
Er: YAGレーザーによる歯石除去については、NPO日本歯周病学会ポジションペーパー3) (学会見解論文)にまとめられていますので、参考にしてください。

〔症例1〕

64歳、女性、主婦の方で、右下臼歯部の咬合痛と歯肉腫脹を主訴に来院されました(図1)。
643には7~8mmの深い歯周ポケットが存在し、43遠心および6近心には垂直性骨欠損が認められました(図3)。歯周基本治療としてブラッシング指導(TBI)、超音波スケーリング(SC)、咬合調整を行い、再評価の後にEr: YAGレーザー(アーウィンアドベール、モリタ社)単独によるSRPを浸潤麻酔下にて行いました(100mJ、10pps、PS600Tチップ、注水下)。
Er: YAGレーザーを選択した理由としては、骨縁下欠損があり、ハンドスケーラーでは器具到達性に限界があること、また歯肉が薄く、角化歯肉幅が狭い(図2)ことから、ハンドスケーラーでのSRPは術後の歯肉退縮が大きく、生活歯であるため知覚過敏が起きやすいことがありました。また患者さんは、外科治療をできれば避けたいとの希望もありました。
結果として、写真に示すように歯肉退縮は最小限に抑えられ(図4)、術後の知覚過敏もほとんどなく、骨縁下欠損も基本治療のみで改善傾向を示し(図6)、良好な経過を得ることができました。
なお、本症例においては、76欠損により右側臼歯部のバーティカルストップが不安定なことも原因の一つであり、再発を防ぐためにも欠損補綴を検討中です。

  • 図1 正面(レーザーSRP 前) プラークコントロール良好。歯肉表面の炎症は認められません。

  • 図2 右側(レーザーSRP 前) 歯肉は薄く、4の角化歯肉幅が狭い。⑦6⑤陶材焼付前装Br、76部分床義歯の使用はありません。

  • 図3 レーザーSRP 前643には7~8mmの深いポケットがあり、43遠心、6近心に垂直性骨欠損が認められます。

  • 図4 正面(レーザーSRP 1か月後) TBI、超音波SC、咬合調整後、浸麻下にてレーザー単独で右下1/4 口腔にSRP を行いました。

  • 図5 右側(レーザーSRP1 か月後)4に歯肉退縮を認めますが、最小限に抑えられ、知覚過敏もほとんどありませんでした。

  • 図6 レーザーSRP1か月後ポケットはすべて3mm以下に改善し、また規格写真ではありませんが、垂直性骨欠損も改善傾向にあります。

歯周再生オペ予定部位におけるSRP後の軟組織ロスを防ぐ

〔症例2〕

62歳、女性、パートの方です。歯の動揺により咬むと不安定で、歯周病の治療をしっかり受けたい、全身疾患もあるので大学で診てほしい、との主訴で当科に来院されました。
初診時の状態ですが、残存歯周囲には多量のプラークが付着しており(プラークスコア97.2%)、歯肉表面の発赤、腫脹は著明で、歯肉増殖症も伴っていました(図7)。また、主訴にもありましたように、全顎的に残存歯の動揺がとても大きく、歯周ポケットはすべての歯で6mm以上とかなり重度で、5近心では11mmの非常に深いポケットが認められました。右上臼歯部には、帯状の多量の縁下歯石の沈着が認められ、5近心には根尖近くに及ぶ非常に深い垂直性骨欠損が認められました(図12、上)。
全身疾患としては高血圧、バセドウ病、脳梗塞があり、降圧薬としてカルシウム(Ca)拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の2種類、また脳循環改善薬、抗血小板薬の服用もありました。
患者さんのモチベーション、ブラッシングの向上もあって、当初予想していたよりも組織反応性が良く、内服薬の変更は行っておらず、縁上スケーリングでかなり歯肉表面の炎症の改善が図れました(図8)。
67は骨吸収100%で保存不可能なため抜歯し、咀嚼機能回復のため早期に上顎暫間義歯を装着しました。その際、とくに動揺の大きい65445は不良補綴物除去後、患歯の2次固定と咬合の安定のため、テンポラリークラウンを暫間義歯に追加しました(図9)。
その後、内科主治医に問い合わせたところ、歯周外科治療が可能との返事をもらい、患者さんも同意されましたので、5歯周再生オペを見据えて、右上臼歯部にレーザーSRPを行いました(100mJ、10pps、PS600Tチップ、注水下)。
深い骨縁下欠損部に対する炎症性因子の除去、再生オペ時のスペースメイキングに不利とならないように軟組織を温存する必要があること、また患者さんの負担をなるべく最小限にし、低侵襲的に処置を行う目的でEr:YAGレーザーを選択しました。
レーザーSRPの術前後で歯肉退縮がほとんど認められないことに注目です(図810)。
Er: YAGレーザーは水への高い吸収特性により、熱エネルギーの大半が組織表面で吸収されるため、周囲組織への影響が少なく、熱凝固・変性層が小さくなり、歯肉退縮も少なく、治癒が早いのが特徴です。レーザーSRP再評価後、5はGTR法による歯周再生オペを行い(図11)、現在経過観察中です(図12、下)。

  • 図7 初診時 多量のプラーク付着と歯肉表面の炎症が著明です。Ca 拮抗薬による歯肉増殖症も認めらます。

  • 図8 TBI、縁上SC 後 組織反応性が良く、スケーリングで歯肉表面の炎症はだいぶ改善しました。全体に歯肉退縮を認めます。

  • 図9 上顎暫間義歯に654テンポラリークラウンを追加し2次固定効果を、は歯根近接の是正のため、遠心移動を図りました。

  • 図10 右上臼歯部レーザーSRP 2.5か月後 は歯周再生オペを予定。術前後(図8 と比較)で歯肉退縮がほとんど認められないことに注目。

  • 図11 歯周外科時の54 骨欠損状態 はGTR法(Biomend Ⓡ + アパセラムAX Ⓡ)、は歯槽骨整形術にて対応しました。

  • 図12 初診時(上)、GTR2.5 か月後(下) 歯根膜腔の拡大を認めますが、graft材の漏洩はなく、経過観察中です。

Er:YAGレーザー歯石除去治療における注意点

歯石除去に先立って、まずEr: YAGレーザーを応用するにあたり注意しなければならないことは「安全面への配慮」です。
Er: YAGレーザーは2.94μmの波長を持つ中赤外線で、目には見えません。組織浸透性が低く、表面吸収型の安全性の高いレーザーですが、目の保護のため治療中は患者、術者、介助者すべてにEr:YAGレーザー専用の防護用ゴーグルの着用を義務づけなければなりません(図13)。また、電源のON/OFFを常に確認し、周囲に人がいないことを十分確認してから、レーザー照射を行うようにします。
レーザー光はミラーや金属冠に反射しますし、照射部位のみに意識が集中するあまり、口唇や他の口腔粘膜への誤照射など、人為的な医療事故は絶対に避けなければなりません。
定期的な安全講習、技術講習等へ参加し、常に安全管理に努める必要があります。また、機器のメインテナンスもレーザーを安全に使用する上で重要です。
当科では、使用後チップは血液溶解剤を含む洗浄液(アドクリーナー、モリタ社)に浸漬し(図1415)、チップ先端はガラス製で破損しやすいですから、保護のためゴム製のチューブをはめてから、単包でオートクレーブ滅菌し管理しています(図16)。
歯石除去において、まず注意しなければならないことは、Er: YAGレーザーで歯石だけを完全に選択的に蒸散することは不可能なため、①あくまで適応は「歯肉縁下歯石」ということです。歯肉縁上の歯石を除去しようとすると、その下のエナメル質も多少蒸散されてしまうため禁忌です。また、②適確な出力設定、③適確な照射方法(歯根面へのチップの当てる角度)が重要です。
本稿の症例では研究の関係もあり、Er: YAGレーザーの出力は100mJとやや高めに設定しましたが、臨床的に問題のない範囲内です。
また、チップは歯根面に平行あるいはわずかに斜めに保持するようにし(図17)、一点に集中させずに適度に動かすようにしなければなりません。照射方法を誤れば、過度な歯根面の蒸散を招くことになりかねません。
しかし、逆に適切に出力、照射法をコントロールすれば、レーザーSRPはハンドスケーラーに比較してセメント質の温存が可能で、過剰なルートプレーニングによるセメント質の切削が回避でき、その意味でも大変理にかなった低侵襲的な治療といえます。

  • 図13 レーザー治療中は、患者、術者、介助者すべてに専用の防護用ゴーグルの着用を義務づけなければなりません。

  • 図14 レーザーチップ用洗浄剤(アドクリーナー、モリタ社)

  • 図15 チップは使用後、アドクリーナー(モリタ社)に浸漬し、パイプ中の血液溶解と洗浄を行っています。

  • 図16 先端の破損防止のためゴム製チューブをつけ、単包でオートクレーブ滅菌して保管しています。

  • 図17 チップは歯根面に平行あるいはわずかに斜めに保持し、一点に集中させずに適度に動かします。

歯科処置と菌血症

菌血症とは、細菌が一過性に血管の中に入り込むことですが、健康な人であれば1時間以内に細菌はいなくなります。図18に示しますように、歯科処置によって菌血症の頻度はかなり高くなります。歯肉縁下の歯石除去(スケーリング・ルートプレーニング)を行うと、8%から79%の確率で菌血症が生じると報告されています。
そこで、私たちは図19にありますように、重度の歯周炎患者10名の協力を得まして、1/4口腔を浸潤麻酔下で、ハンドスケーラー(グレーシーキュレット)による歯肉縁下歯石除去を約40分間行いました。
歯石除去をはじめてから6分後に、腕の静脈から血液を採取して、その血液を培養して細菌がいるかどうか調べました。そうしますと、10名の患者さんのうち9名の方から細菌が検出されました。検出された細菌は、主に連鎖球菌であり、Fusobacterium nucleatumなどの歯周病原細菌もありました4)
このように、歯周ポケット内に存在する細菌が、歯石除去中に歯肉の毛細血管を介して血液中に入り、全身を巡るわけです。もちろん、歯石除去治療の1週間前に、何も歯周治療を行わず、採血しても、全員から細菌は検出されません。
歯肉縁下の歯石除去により、高い頻度で菌血症は生じますが、全身的に健康な患者さんであれば問題ありませんが、心疾患のある人や、未治療の糖尿病患者さんなど抵抗力が低下している人では、重篤な影響を及ぼす可能性があります5)

  • 図18

  • 図19

Er: YAG レーザー歯石除去による菌血症防止

Er: YAGレーザーの殺菌性を利用して、歯石除去中の菌血症を防止できないかと考え、現在進行中の臨床研究を紹介します。
図20にありますように、現在まで7名の歯周炎患者に協力を得まして、アーウィンアドベール(モリタ社)、PS600Tチップを使用して、パネル設定100mJ、10ppsの条件で、口腔内1/4顎を浸潤麻酔下で、歯肉縁下歯石除去を約40分間行いました。同様に、操作後6分後に、腕から採血して菌血症の発生頻度を調べました。現在まで7名中1人も、血液から細菌は検出されておりませんでした(図21)。
例数も少ないので断言はできませんが、Er:YAGレーザーによる殺菌作用と菌血症防止の可能性が示されています。また、歯周組織の改善程度は、ハンドスケーリングとほぼ同等の効果でした。

Er: YAGレーザーが保険導入になったことは、大変喜ばしいことですが、パワーのあるレーザー使用については、適切な管理と安全性にもとづいた使用がなによりも重要です。正しい知識と的確な技術があってこそ、歯周炎に悩む患者さんへの福音となるわけです。
定期的な安全講習・技術講習等は必須のことであり、その体制をより充実したものにすることが近々の課題といえます。

  • 図20

  • 図21

参考文献

  • 1) 吉江弘正、宮本泰和、石川知弘、吉野敏明:特別企画 座談会 歯周治療に活かすための細菌検査と抗菌療法を症例から学ぶ.ザ・クインテッセンス、第24巻、第2号、P33-54、クインテッセンス出版、東京、2005年2月.
  • 2) 吉江弘正:Q & A 吉江弘正先生にここが聞きたい 歯周治療における抗菌薬物療法の使用基準.日本歯科評論、第70巻、第6号、P13-15、ヒョーロンパブリッシャーズ、東京、2010年6月
  • 3) 青木章、水谷幸嗣、渡辺久、和泉雄一、石川烈、冨士谷盛興、千田彰、吉田憲司、栗原英見、吉江弘正、伊藤公一:ポジションペーパー(学会見解論文)レーザーによる歯石除去.監修:特定非営利活動法人日本歯周病学会、日本レーザー歯学会 日本歯周病学会会誌、第52巻、第2号、P180-190、2010年6月.
  • 4) Morozumi T, Kubota T, Abe D,Shimizu T, Komatsu Y, YoshieH: Effects of irrigation with an antiseptic and oral administration of azithromycin on bacteremia caused by scaling and root planning. J Periodontol. 2010; 81: 1555-1563.
  • 5) 両角俊哉、吉江弘正:FOCUS歯周治療により引き起こされる菌血症その意味と対策を考える.ザ・クインテッセンス、第28巻、第12号、P139-146、クインテッセンス出版、東京、2009年12月.

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