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No.222 2013年4月1日発行

「クリアフィル マジェスティ ES フロー」とフロアブルコンポジットレジンの臨床

鶴見大学歯学部 保存修復学講座 秋本尚武

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「クリアフィル®マジェスティ®ESフロー」と
フロアブルコンポジットレジンの臨床

鶴見大学歯学部 保存修復学講座秋本 尚武

KEYWORDフロアブルCRの誕生と進化 / 表面滑沢性 / マジェスティ ESフローの特長 / 症例供覧

はじめに

ここ数年、物性と操作性の向上によりフロアブルタイプのコンポジットレジン(以下CR)が臨床で広く用いられている。クラレノリタケデンタルは、フロアブルタイプのCRにおいてもユニバーサル(ペースト)タイプと同様に機械的物性を重視しており、2007年にはフィラー含有量81wt%の「クリアフィル マジェスティ LV」(以下「マジェスティ LV」)を開発した。物性はユニバーサルCRに匹敵する製品であったが、表面の粗慥感と研磨性にやや満たされない感があった。今回、機械的物性はマジェスティ LVと同等でありながら表面滑沢性が驚くほど飛躍的に向上したフロアブルCRが開発された。
本稿では、新しくクラレノリタケデンタルにより開発されたフロアブルCR「クリアフィル マジェスティ ES フロー」の特長と臨床例について紹介する。

クリアフィル マジェスティ ESフローの特長
  • 1:高い研磨性と滑沢耐久性
  • 2:ユニバーサルCRに匹敵する機械的物性
  • 3:多用途に使える充填操作性
  • ●販売名 クリアフィル マジェスティ ESフロー
  • ●一般的名称 歯科充填用コンポジットレジン
  • ●医療機器認証番号 224ABBZX00170000
  • ●医療機器の分類 管理医療機器(クラスII)
  • ●製造販売 クラレノリタケデンタル(株) 新潟県胎内市倉敷町2-28
  • ●販売 (株)モリタ

1フロアブルコンポジットレジンの誕生と進化

フロアブルCRが臨床応用されてからすでに20年近くが経つ。
当初は、流動性があることから(だからフロアブルと呼ばれているのだが…)、充填後の付形が困難であり症例も限られていた。また、「流動性」イコール「非常に少ないフィラー含有量」というイメージが強く、咬合力がかかる部位への修復が避けられた。そのためフロアブルCRは機械的強度の低い充填材料という印象を与え、症例が限定された材料として捉えられていた。メーカーも用途が限られた材料として改良を続け、研究者も適応症を広げようとしなかったが、一般臨床家が様々な症例に応用し始めた。当初は少し行き過ぎの感もあったが、現在では機械的性能もユニバーサルタイプに匹敵しており、臼歯部でも使用可能な製品も多くなっている。さらに物性だけではなくペースト性状についての改良も進み、ペースト自体には流動性があるが充填後(採取後)にはペーストが流れない形態保持性を持つ製品もいくつか開発されており、「フロアブル」という言葉のイメージを新たにする必要がある。このように臨床で使用されるようになってきたフロアブルCRであるが、その潮流はユニバーサルタイプに取って代わる勢いである。今後全てのコンポジット症例に適応可能なフロアブルCRが開発される日も遠くはないと思われる。
今から約30年前、CR材料が臨床で使用され始めてすぐに、窩洞への気泡の混入を避ける目的で流動性のある低粘性のCR(「クリアフィルSC-乳歯色」)がクラレ(当時)により開発され、主に小児用に使用されていた。その後、光重合タイプも開発されたが、いわゆるフロアブルCRという概念はなかった。
クラレは1991年に「プロテクトライナー」(その後フッ化物イオンを徐放する「プロテクトライナーF」に改良)という低粘性レジン(流動性を持つレジン)を開発し、レジン接着システム「クリアフィル ライナーボンドシステム」に組み込んだ。
本接着システムは、現在では全く受け入れられない4ステップ(エッチング、プライミング、ボンディング、ライニング)の接着処理システムの製品であったが、それぞれのステップの役割は、歯質への接着にとって大変重要な意味を持ち、現在のレジン接着材を考える上での基礎となっている。この中で「プロテクトライナー」は、レジン接着処理後に窩底部にライニング材として一層塗布して使用された。フィラー含有量は約20wt%と通常のCRの約1/3であり、そのため流動性があり、また弾性率が低い(たわみやすい)材料であった。当時のボンディング材にはフィラーが入っていなかったことから、ボンディング材層とフィラーを含む硬いCRとの間に中間的な物性を持つ低粘性レジンを挟むことで、コンポジットの重合収縮に対する緩衝材として使用された。なお、このCR充填前にライニングに用いる方法やその考え方は、現在でもフロアブルCRの使用目的の一つである。
市場での修復用フロアブルCRの需要が高まってきたことから、クラレメディカル(当時)は「クリアフィル フローFX」(2004)、そして2007年にはフィラー含有量がユニバーサルタイプと同等もしくはそれ以上の81wt%という「マジェスティ LV」を開発した。クリアフィルブランド開発以来CRの機械的物性に注力しているクラレメディカルは、「マジェスティ LV」においても十分な機械的物性を付与したが、一方でやや研磨が難しい製品であった。
米国では、すでに1990年代中頃に一般修復用材料として約60wt%のフィラー含有量をもつフロアブルCRが開発され、その後サブミクロンフィラー(平均粒径0.7μm前後)を用い表面滑沢性に優れた、そしてフィラー含有量が約70wt%とユニバーサルCRに近い物性を持ったフロアブルCRが開発された。
現在では国内外を問わず、非常に数多くのフロアブルCRが市場にあふれている。以前は、ユニバーサルタイプと比較するとフィラー含有量が少なくやや物性に劣ることから、前歯部修復に適応が限られていたが、今ではフィラー表面処理技術の改良などにより物性が向上し臼歯部に用いることが可能になっている。
またペースト性状も各社ともHigh FlowからLow Flowまで様々な流動性を持つフロアブルCRを開発し、中には探針等で解剖学的な形態付与が可能な製品もある。今後、フロアブルタイプがCR修復の主流になり様々な症例で用いられる機会が増えることが予想される。

2「クリアフィル マジェスティ ES フロー」の特長

今回、クラレノリタケデンタルは新規フィラー技術により、サブミクロンのガラスフィラーとクラスターフィラーを採用したフロアブルCR「クリアフィル マジェスティ ESフロー」(以下「マジェスティ ESフロー」)を開発した。
本製品では新規にフィラー表面処理技術も開発し、サブミクロン(1μmの1/10)スケールを主体とした微小フィラーでありながら75wt%の高密度フィラー充填率とベースレジンの重合性の向上に成功している。この結果、機械的物性、なかでも特に曲げ強さと圧縮強さは「マジェスティ LV」と同等の製品となっている(図1)。
さらに特筆すべきは、CR表面の滑沢性である。この「マジェスティ ESフロー」の光照射直後の表面には、これまでの「クラレのレジン」にはなかった光沢感と滑沢性がある。これまでは、光照射直後のCR表面の粗慥感を感じることがあったが、本製品の表面滑沢性は充填後に形態修正の必要がなければ、全く研磨をしなくてもいいほどである。

1ツヤがあり滑沢な「マジェスティ ESフロー」表面

前述のとおり、フィラーの表面処理技術の改良によりシランカップリング処理の反応効率を上昇させたことで、フィラーの充填率はもちろん、ベースレジンの重合反応性の改良により表面硬化性が向上し、結果的に表面の滑沢感が実現できていると考えられる。光照射直後の修復物表面を探針で触るとエナメル質と同等の滑沢感を感じることができる。光沢感も「マジェスティ LV」と比較するとその差は歴然である。メーカーのハウスデータではあるが、初期光沢度(未研磨状態の光沢度)は、26%であり、これは「マジェスティ LV」の0.6%と大きく異なる(図23)。
研磨性も大きく改善されており、30枚刃カーバイドバーまで使用しなくとも18枚刃で表面を切削する程度でも光沢感が得られ、カーバイドバーによる形態修正後に研磨の必要性を感じないほどである。また、これもメーカーのハウスデータではあるが、研磨性においては#600研削面を「コンポマスター」(松風)で10秒間研磨することにより光沢度は51%、そしてさらに10秒間の研磨で66%にまで上昇した。そしてこの状態から歯ブラシによる40,000回ブラッシング後の光沢度を測定した光沢耐久性においては光沢度が65%であり、ブラッシングにより表面光沢度がほとんど変化しないことがわかる(図4)。

  • 図1曲げ強さと圧縮強さ

  • 図2未研磨での光沢比較(硬化後、未重合層を除去した状態)

  • 図3未研磨光沢度

  • 図4初期研磨、光沢耐久性

2「マジェスティ ESフロー」の操作性
  • (1)流動性

    現在様々な流動性を持ったフロアブルCRがあるが、大きく分類するとLow Flow、Medium Flow、High Flowの3種類になる。これまで、Medium FlowとHigh Flowの製品が多く開発されていたが、最近では採取した後に全く流動性を示さず形態付与が可能なLow Flowの製品も開発され、フロアブルCRのバリエーションが広がっている。本製品のフロアブルCRとしての「流れ(流動性)」は、“やや流れる”Low Flowである。
    図5は、「マジェスティ ESフロー」、「マジェスティ LV」と2種類の市販フロアブルCRを練板上に採取後、練板を垂直にして“直後”、“1分後”そして“3分後”の状態である。「マジェスティESフロー」は「マジェスティ LV」より流動性がないが、他のLow Flowタイプの市販フロアブルCRと比較するとやや流れるのがわかる。この流動性であれば、くさび状欠損、Ⅲ級そして臼歯部修復など各症例に十分応用可能であろう。あえていえば、今後もう少し流れがない、そして探針等の器具で形態付与したあとの形態保持性が保たれるような製品がラインアップされれば、臼歯部咬合面の形態付与もストレスなく行うことができるであろう。臼歯部窩洞においてフロアブルCRをただ流し込むだけの充填で、「CR修復」というのは少し寂しい。やはり咬合や食物の流れを考えた解剖学的形態を再現したいものである。ただ、いずれにしても臨床的には非常に汎用性の高いペースト性状と言えるであろう。

    1. 1. 直後。
      左より「マジェスティ ESフロー」、「マジェスティ LV」、市販他社製品2種類。

    2. 2. 練板を垂直にして1分後。
      「マジェスティ ESフロー」は形態を保持しているが、「マジェスティ LV」は下に流れているのがわかる。

    3. 3. 練板を垂直にして3分後。
      「マジェスティ LV」はさらに流れている。そして「マジェスティ ESフロー」もやや流れ始めているのがわかる。

    図5各種フロアブルCRの流動性

  • (2)シリンジからの押し出しとペーストのキレ

    フロアブルCRは、直接シリンジチップ先端から窩洞内に充填される。著者は以前窩洞のライニングにフロアブルCRを使用する際には、ペーストを探針先端に球状に採取し窩底部に持っていき充填していたが、これは非常に流動性の高いHighFlowの製品しかなかった時代の話である。現在では、Medium FlowからLow Flowの製品しか使用しないことから、直接窩洞内に充填を行う。ここで問題になるのがシリンジからの押し出す際の力加減である。押し出す際の力がある程度以上に必要な製品の場合、特に流動性がLow Flowに近づくほど窩洞内での細かい作業が困難になりストレスを感じる。「マジェスティ ESフロー」では、フィラーの新規表面処理技術により女性でも楽に操作できるように押し出し強さを調整している。また、採取後のシリンジチップ先端でのペーストのキレも細かい充填の際には気になるところであるが、「マジェスティ LV」同様全く問題なくペーストのキレは良く、そしてチップ先端からの後ダレもない。
    一つ注意点は、これまでに後ダレを起こすフロアブルCR製品を使用していた場合、その対応としてペースト採取後にシリンジを引くことを行うが、「マジェスティ ESフロー」では、シリンジを引くことで気泡の混入を招く恐れがあることから、決して行わないようにすることである。

3色調

「マジェスティ ESフロー」で用意されている色調は、全部で11色である。数ヵ月前に発売された「VITA Approved Shades」の「クリアフィル マジェスティ ES-2」、「クリアフィル マジェスティES-2 Premium」と同じくVITAシェードに適合した色調となっており、光重合前後の色調変化もコントロールされている。

クリアフィル® マジェスティ® ESフローを
使った臨床例

症例1 下顎右側第一小臼歯くさび状欠損修復

  • 1-1頰側にくさび状欠損が認められる。特に冷水痛等の症状は認められないが、食物が引っかかるとのことでCR修復を行うことにした。

  • 1-2ロールワッテによる簡易防湿の後、歯肉溝に歯肉圧排糸を挿入し、歯肉側マージンを明瞭化する。

  • 1-3特にくさび状欠損部表面の切削はせず、レジン接着材(「クリアフィル ボンドSE ONE」)による接着処理を行う。

  • 1-4メーカー指定の処理時間後(10秒)、3Wayシリンジにより処理面を十分に乾燥する。

  • 1-5メーカー指示に従い光照射を行う(10秒)。光照射器の光強度、照射距離、照射時間に十分な注意をはらう。

  • 1-6シリンジチップ先端から直接窩洞に「マジェスティ ESフロー」を充填する。充填はエナメル質側から歯頸部側に向かいながら行う。

  • 1-7「マジェスティ ESフロー」は窩洞全体に塗布するのではなく、歯頸部側マージンよりもやや上のあたりまで充填する。

  • 1-8探針により「マジェスティ ESフロー」を少しずつ歯頸部側に移動させるようにし、充填していく。歯肉縁に触れないように注意する。

  • 1-9探針による形態付与が終了したところ。「マジェスティESフロー」が歯肉縁上に触れていないのがわかる。

  • 1-10光重合後、歯肉圧排糸をそっと除去していく。 歯肉側マージン部分には「マジェスティ ESフロー」のバリが認められる。歯肉圧排糸を除去した後、探針で歯肉側マージンまでしっかり「マジェスティ ESフロー」が充填されていることを確認する。

  • 1-11歯肉圧排糸を除去したところ。「マジェスティ ESフロー」のバリが歯肉縁に認められる。18枚刃のカーバイドバーによりバリの部分を削除していく。

  • 1-12バリを削除し、形態修正を行った。研磨は行っていないが、表面に光沢感がある。探針で表面を触れると「マジェスティ ESフロー」の滑沢感が感じられる。

症例2 下顎右側第二小臼歯メタルインレー再修復

  • 2-1冷水痛を主訴に来院した。二次う蝕が疑われたためメタルインレーを除去し、CR修復を行うことにした。

  • 2-2ラバーダム。臼歯部CR修復においては、必ずラバーダムを行う。術野が隔離され集中できる。インレー除去後、遠心面にう蝕が認められた。

  • 2-3う蝕検知液を指標に感染象牙質を除去したところ。ラバーシートにより歯間乳頭部が圧接され、歯肉側マージンが露出しているのがわかる。

  • 2-4「コンポジタイト3D リテーナースモール」、「スリックバンド」、「ウェッジワンド」(ギャリソン・デンタル・ソルーションズ)による隔壁。歯肉側マージン部分が、バンドとウェッジでしっかりと封鎖されているのがわかる。

  • 2-5「クリアフィル ボンドSE ONE」によるレジン接着処理。

  • 2-6「マジェスティ ESフロー」による修復。まず、隣接面歯肉側マージン部分にシリンジチップ先端をおき、接触点付近まで充填し光照射を行う。その後、辺縁隆線と咬合面を充填し光照射。

  • 2-7隔壁を除去したところ。隣接面に「クリアフィル ボンドSE ONE」と「マジェスティESフロー」のバリが認められる。

  • 2-8隣接面のバリは、まずスケーラーで除去し、その後ヤリ状のカーバイドバーあるいはディスクを用いて辺縁隆線部分の形態を仕上げる。

  • 2-9ラバーダムを除去し、咬合状態を確認する。咬合面の解剖学的形態は、光重合前に探針などで付与しても保持しにくいため、裂溝等がややつぶれたようになる。

  • 2-10隣接面の形態修正に用いたヤリ状カーバイドバーで、咬合面の小窩裂溝を仕上げる。

  • 2-11修復2週後の状態。

さいごに

MIの概念が少しずつ臨床家に浸透し、う蝕治療におけるう蝕除去法、そして窩洞形態や窩洞サイズが見直され始めている。この状況の中で、使用するCRはユニバーサル(ペースト)タイプからフロアブルタイプへとシフトしてきている。市場分析でもフロアブルCRのシェアが、すでにユニバーサルタイプと同等かそれ以上であると聞く。まだ様々な面でユニバーサルタイプを完全に超えるまでの材料にはなっていないが、今後さらに機械的物性や操作性、そして表面性状が改良され、ますます臨床での使用が増えることは間違いないと思われる。フロアブルCRの操作感を修得し自在に扱えるようになることで、歯科医としてCR修復の臨床がさらに楽しくなることであろう。

参考文献

  • 秋本尚武:コンポジットレジン修復の最新の潮流日常臨床で必ず使えるコンポジットレジン修復の一手― 適応基準、テクニック、マテリアルのすべて ― .pp14~30、 クインテッセンス出版、東京、2011.1.10.

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