高輪歯科DCC&DSS加藤 正治
KEYWORD根面う蝕予防/Tooth Wear進行抑制/エナメルクラック修復/ステイン沈着抑制
「ティースメイト ディセンシタイザー」(以下TMD)はハイドロキシアパタイトを生成して象牙細管を封鎖する新しいタイプの知覚過敏抑制材料です。安全性が高く操作が容易で高度な手技を必要としないため、知覚過敏抑制目的だけでなく、プロフェッショナルケアの場面で有効活用できることも、この製品の大きな特徴となっています。
そこで今回はプロケアの一環として期待されている活用法を紹介します。
TMDは本来露出した象牙質表層の開口した象牙細管を封鎖することで知覚過敏抑制効果を発揮しますが、同時に、象牙細管を封鎖することはう蝕抑制においても大いにメリットがあります。
細菌のサイズ1μmに対し象牙細管開口部は直径1~3μmともいわれており、コラーゲンに富んだ象牙細管は細菌の侵入を容易にしてしまいます。そこでプロケアの仕上げとして根面う蝕リスクの高い部位にTMDを塗布して象牙細管を封鎖することで、う蝕予防効果が期待できます。
図1は抜去歯を用いて作製した象牙細管開口モデルです。
この状態にTMDを塗布することで図2に示すとおり細管が封鎖される様子がわかります。また、表面の凹凸を数値化した表面粗さRa値は減少し、歯面がきめ細かく整えられていることがわかります。
象牙質は70%のハイドロキシアパタイトと20%の有機質、10%の水で構成されていますが、TMDは根面最表層のコラーゲンリッチな象牙細管をハイドロキシアパタイトで封鎖することでアパタイトリッチなエナメル質に近い状態を作り出すことができるため、根面う蝕予防にも有効と考えられます。
図3~8は歯周治療後に歯根象牙質が露出し、さらに歯間部の清掃が困難になったことから根面う蝕に対する注意が必要となった症例です。十分な歯面清掃後、TMDを塗布しますが、隣接面には唾液に触れると膨潤するeフロス(製造ライオン歯科材(株) 販売(株)モリタ)を用いて擦り込むと効果的です。
仕上げにハイドロキシアパタイトの生成を促進し、耐酸性を向上させるために低濃度フッ化物ジェルでパックするとよいでしょう(次ページグラフ参照)。
象牙細管の封鎖効果
図 2TMD処理後。表面粗さRa:0.190μm
図 3TMD処理前。
図 4マイクロブラシでTMD塗布。
図 5フロスで隣接面に擦り込む。
図 5フロスで隣接面に擦り込む。
図 6弱圧で水洗。
図 6弱圧で水洗。
図 7低濃度フッ化物ジェルを併用すると効果的。
図 8本症例でチェックアップジェル(ライオン歯科材(株))を10分間塗布した。
酸溶解性試験 【JIS T6609-1 (2005)】(37℃で24時間浸漬、pH=2.74)ティースメイトディセンシタイザー<クラレノリタケデンタル(株) >を混和後、37℃に1時間静置後に、チェックアップジェル(950 ppm F) <ライオン歯科材(株)>を10分塗布。
図9~13は2近心歯頸部から露出根面にかけて軟化傾向が認められ、象牙質表面にわずかな凹面が形成されて粗造化してきた症例です。知覚過敏症状は認められませんでしたが根面う蝕の進行停止を目的にTMDを応用することにしました。このようなケースでは、セルフケアでの歯面清掃が困難になり、またプロフェッショナルケアにおいても非侵襲的な歯面清掃が求められるため、象牙細管の封鎖と再石灰化促進により歯根表面の硬さを回復するようなケアを施すようにします。
術前の歯面清掃は必須ですが機械的清掃によるダメージは最小限に抑え、化学的清掃法を併用すると良いでしょう。
ここではADゲル(クラレノリタケデンタル(株))によりバイオフィルム、ペリクルなどの有機質を除去しています。ADゲルと同時にエキスカを用いれば表層の軟化象牙質を取り除くことが可能です。水洗後はダイレクトにTMDを塗布して細管封鎖効果を高めています。
図 9手用ブラシによる清掃後の状態。
図 10ADゲルを小筆を用いて1分程度塗布する。
※軟組織には付着させないように注意すること
※口腔外バキュームで吸引しながら行うこと
図 11精製水で十分に水洗、乾燥する。
図 11精製水で十分に水洗、乾燥する。
図 12TMDをマイクロブラシで擦り込む。
図 12TMDをマイクロブラシで擦り込む。
図 13TMD処理後の状態。
TMDの対象は象牙質ばかりではなくエナメル質に対しても臨床効果が期待できます。エナメル質表面は日々のブラッシングや過度なPMTC等によってダメージを受けています。そこでプロフェッショナルケアでは、傷ついた歯面をTMDのハイドロキシアパタイトで修復する「歯面修復」を行います。
図14は抜去歯エナメル質の研磨面ですが、無数の研磨傷が観察できます。TMDを塗布すると図15に示すように表面粗さRa値は減少し研磨傷が埋め立てられて歯面が修復されていることがわかります。
歯面修復効果1(エナメル質研磨傷の修復)
図 15TMD処理後。表面粗さRa:0.203μm。
研磨傷が埋め立てられた状態。
また、エナメル質表面にはもともと微細な凹凸や周波条が存在するため、その程度によってはステイン沈着の原因となったりバイオフィルムが付着しやすくなったりすることがあります。このようなケースでもTMDを用いて歯面修復すると表面粗さが減少して、徐々になめらかな歯面を獲得していくことが可能になります(図16、17)。
さらにエナメル質には機械的刺激、温度変化等によってクラックが入ることがよくあります。エナメルクラックは象牙質まで到達すると、たとえ象牙質が露出していなくても知覚過敏症状を引き起こす場合があります。あるいはクラックにステインが入り込んでしまうこともあります。
歯面修復効果2(エナメル質未研磨面の修復)
図 17TMD処理後。表面粗さRa:0.392μm。
エナメル質表面の凹凸が埋め立てられた状態。
図18、19に示すようにTMDはエナメルクラックの間隙に入り込んで封鎖効果を発揮します。これにより外来刺激の遮断とステインの侵入を防止することが可能になります。ホワイトニング症例にもTMDを併用すると効果があるでしょう。
歯面修復効果3(エナメルクラックの修復)
図 18TMD処理前。
図 19TMD処理後。
図20~25は下顎前歯部に限局してみられるステイン沈着症例です。拡大してみるとエナメル質表面の傷やもともと存在する凹凸に沿ってステインが沈着し、なおかつブラッシング時に毛先の当たりが弱いところほどステインやプラークが取り除かれずに残留している様子が観察できます。また縦走するクラックにはステインが入り込んで審美的にも好ましくない状態になっています。
このケースではエナメル質表面の荒れたコンディションをハイドロキシアパタイトで「歯面修復」することを目的にTMDを応用しました。術前の歯面清掃ではワンタフトブラシとADゲルを用いて数歯ずつステイン、バイオフィルム、ペリクルなどの有機質を除去しました。ADゲル水洗後はクラック内に入り込んだ色素も目立ちにくくなっています。
TMDはラバーカップを用いて低速回転でよく擦り込むようにします。塗布後は弱圧にて水洗します。このような歯面修復型のケアを繰り返すことでエナメル質の表面粗さが改善され、ステイン沈着の抑制効果が期待できます。セルフケアにおける日々のブラッシングで容易にステインの再付着をコントロールできる歯面の獲得をめざして行うとよいでしょう。
図 20歯面清掃前。
図 21ワンタフトブラシにてADゲルを数歯ずつ作用させて化学的清掃を行う。
※軟組織には付着させないように注意すること
※口腔外バキュームで吸引しながら行うこと
図 22化学的清掃を行った 32はステイン、プラークが除去されている。
図 22化学的清掃を行った 32はステイン、プラークが除去されている。
図 23ラバーカップを用いて低速回転(500回転程度)でTMDを十分に擦り込む。
図 23ラバーカップを用いて低速回転(500回転程度)でTMDを十分に擦り込む。
図 24弱圧にて水洗。
図 25ステインコントロールしやすい歯面を獲得。
図26~29は下顎第二小臼歯頬側に発生したエナメルクラックに起因する知覚過敏症例で、歯頸部象牙質も露出していますが、歯頸部よりエナメル質クラックからの冷刺激に疼痛を訴えていたケースです。咬合ストレスの強い歯牙でエナメルクラックが認められることは珍しくありませんが、ステインが侵入して着色している比較的古いクラックよりも発生したばかりの新しいクラックが知覚過敏の原因となっていることがあります。このようなクラックは発見しにくいため、トランスイルミネーター(製造アドデント 製造販売(株)モリタ)などのLEDライトを照射することで発見しやすくなります。本症例では歯冠部中央に縦走するクラックの他、咬合による応力が集中する歯頸部側のエナメル質に無数の細かいクラックが観察できました。
TMDはマイクロブラシにてクラックに塗布し、さらにラバーカップを用いて低速回転でよく擦り込むようにします。
本症例ではTMD水洗直後に知覚過敏症状は消退しましたが耐酸性が向上して結晶安定化するまでフッ化物ジェルを10分間塗布し、さらに飲食を1時間控え咬合負担を与えないように指導しました。
図 26LEDライト照射でクラックを確認。
図 27マイクロブラシでTMD塗布。
図 28ラバーカップにてTMDを十分に擦り込む。
図 29フッ化物ジェルを10分間塗布。
図 29フッ化物ジェルを10分間塗布。
TMDは象牙質知覚過敏抑制材料としての臨床効果だけでなく、根面う蝕予防、Tooth Wear進行抑制、エナメルクラック修復、ステイン沈着抑制等、プロフェッショナルケアの視点からも有効利用が期待できる生体に優しくきわめて安全性の高い製品です(図30)。目に見えない変化でその効果を最大限に引き出すためには、プロケアとバランスのとれたセルフケア用品を選択することが必須です。超高齢社会を反映して加齢に伴う様々な歯牙硬組織のトラブルが増加するなか、まさにエイジングケアのマストアイテムとして利用価値の高い製品となるでしょう。
図 30当院における歯のエイジングケアの主な項目。
注 : 図1、図2、図14、図15、図16、図17は高輪歯科DCC&DSSの研究データ(クラレくらしき研究センター協力)によるものです。
注意 : ADゲルは次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする歯面処理材です。
使用に当たっては、口唇、皮膚、衣類に付着しないように十分にご注意ください。
知覚過敏色素沈着根面う蝕ToothWearエナメルクラック❶NO.223高輪歯科DCC&DSS 加藤 正治はじめに 「ティースメイト ディセンシタイザー」(以下TMD)はハイドロキシアパタイトを生成して象牙細管を封鎖する新しいタイプの知覚過敏抑制材料です。安全性が高く操作が容易で高度な手技を必要としないため、知覚過敏抑制目的だけでなく、プロフェッショナルケアの場面で有効活用できることも、この製品の大きな特徴となっています。 そこで今回はプロケアの一環として期待されている活用法を紹介します。「ティースメイト®ディセンシタイザー」をプロケアに活用する特集1 特別寄稿KEYWORD 根面う蝕予防/Tooth Wear進行抑制/エナメルクラック修復/ステイン沈着抑制●販売名 ティースメイト® ディセンシタイザー ●一般的名称 歯科用知覚過敏抑制材料●医療機器認証番号 224ABBZX00014000 ●医療機器の分類 管理医療機器(クラスⅡ) ●製造販売 クラレノリタケデンタル(株) 新潟県胎内市倉敷町2-28今日から使える 経営情報今から始めよう 歯科医院の節税対策:その6患者さんのハートをつかむアイデア:その6特集 2TMDはエイジングケアのマストアイテム(高輪歯科オリジナルスライドより)「ティースメイト® ディセンシタイザー」をプロケアに活用する❷ TMDは本来露出した象牙質表層の開口した象牙細管を封鎖することで知覚過敏抑制効果を発揮しますが、同時に、象牙細管を封鎖することはう蝕抑制においても大いにメリットがあります。 細菌のサイズ1μmに対し象牙細管開口部は直径1~3μmともいわれており、コラーゲンに富んだ象牙細管は細菌の侵入を容易にしてしまいます。そこでプロケアの仕上げとして根面う蝕リスクの高い部位にTMDを塗布して象牙細管を封鎖することで、う蝕予防効果が期待できます。◆象牙細管の封鎖効果 図1は抜去歯を用いて作製した象牙細管開口モデルです。この状態にTMDを塗布することで図2に示すとおり細管が封鎖される様子がわかります。また、表面の凹凸を数値化した表面粗さRa値は減少し、歯面がきめ細かく整えられていることがわかります。 象牙質は70%のハイドロキシアパタイトと20%の有機質、10%の水で構成されていますが、TMDは根面最表層のコラーゲンリッチな象牙細管をハイドロキシアパタイトで封鎖することでアパタイトリッチなエナメル質に近い状態を作り出すことができるため、根面う蝕予防にも有効と考えられます。臨床例(図3~8) 図3~8は歯周治療後に歯根象牙質が露出し、さらに歯間部の清掃が困難になったことから根面う蝕に対する注意が必要となった症例です。十分な歯面清掃後、TMDを塗布しますが、隣接面には唾液に触れると膨潤するeフロス(製造ライオン歯科材(株) 販売(株)モリタ)を用いて擦り込むと効果的です。 仕上げにハイドロキシアパタイトの生成を促進し、耐酸性を向上させるために低濃度フッ化物ジェルでパックするとよいでしょう(次ページグラフ参照)。1 根面う蝕予防に活用する図1TMD処理前。表面粗さRa:0.238μm。試験条件 対象歯質:人歯象牙質 使用研磨紙:#1500 歯面処理条件:3%EDTA30秒間 <TMD処理条件> ラバーカップ回転数、時間: 500rpm、20秒 ラバーカップ種類: メルサージュカップNo.14 TMD処理後:蒸留水で水洗図2TMD処理後。表面粗さRa:0.190μm。象牙細管の封鎖効果図3TMD処理前。図4マイクロブラシでTMD塗布。図5フロスで隣接面に擦り込む。図6弱圧で水洗。❸「ティースメイト® ディセンシタイザー」をプロケアに活用する臨床例(図9~13) 図9~13は2近心歯頸部から露出根面にかけて軟化傾向が認められ、象牙質表面にわずかな凹面が形成されて粗造化してきた症例です。知覚過敏症状は認められませんでしたが根面う蝕の進行停止を目的にTMDを応用することにしました。このようなケースでは、セルフケアでの歯面清掃が困難になり、またプロフェッショナルケアにおいても非侵襲的な歯面清掃が求められるため、象牙細管の封鎖と再石灰化促進により歯根表面の硬さを回復するようなケアを施すようにします。 術前の歯面清掃は必須ですが機械的清掃によるダメージは最小限に抑え、化学的清掃法を併用すると良いでしょう。 ここではADゲル(クラレノリタケデンタル(株))によりバイオフィルム、ペリクルなどの有機質を除去しています。ADゲルと同時にエキスカを用いれば表層の軟化象牙質を取り除くことが可能です。水洗後はダイレクトにTMDを塗布して細管封鎖効果を高めています。図7低濃度フッ化物ジェルを併用すると効果的。図8本症例でチェックアップジェル(ライオン歯科材(株))を10分間塗布した。図9手用ブラシによる清掃後の状態。図10ADゲルを小筆を用いて1分程度塗布する。※軟組織には付着させない ように注意すること※口腔外バキュームで吸引 しながら行うこと図11精製水で十分に水洗、乾燥する。図12TMDをマイクロブラシで擦り込む。図13TMD処理後の状態。酸溶解性試験【JIS T6609-1 (2005)】(37℃で24時間浸漬、pH=2.74)ティースメイトディセンシタイザー<クラレノリタケデンタル( 株)>を混和後、37℃に1時間静置後に、チェックアップジェル(950 ppm F)<ライオン歯科材(株)>を10分塗布。基準値低濃度フッ化物ジェル塗布(10分)17%改善低濃度フッ化物ジェル未塗布酸溶解量(mm)0-0.2-0.4-0.6-0.8-1❹ TMDの対象は象牙質ばかりではなくエナメル質に対しても臨床効果が期待できます。エナメル質表面は日々のブラッシングや過度なPMTC等によってダメージを受けています。そこでプロフェッショナルケアでは、傷ついた歯面をTMDのハイドロキシアパタイトで修復する「歯面修復」を行います。 図14は抜去歯エナメル質の研磨面ですが、無数の研磨傷が観察できます。TMDを塗布すると図15に示すように表面粗さRa値は減少し研磨傷が埋め立てられて歯面が修復されていることがわかります。 また、エナメル質表面にはもともと微細な凹凸や周波条が存在するため、その程度によってはステイン沈着の原因となったりバイオフィルムが付着しやすくなったりすることがあります。このようなケースでもTMDを用いて歯面修復すると表面粗さが減少して、徐々になめらかな歯面を獲得していくことが可能になります(図16、17)。 さらにエナメル質には機械的刺激、温度変化等によってクラックが入ることがよくあります。エナメルクラックは象牙質まで到達すると、たとえ象牙質が露出していなくても知覚過敏症状を引き起こす場合があります。あるいはクラックにステインが入り込んでしまうこともあります。 図18、19に示すようにTMDはエナメルクラックの間隙に入り込んで封鎖効果を発揮します。これにより外来刺激の遮断とステインの侵入を防止することが可能になります。ホワイトニング症例にもTMDを併用すると効果があるでしょう。2 エナメル質を「歯面修復」する図14TMD処理前。表面粗さRa:0.342μm。試験条件 対象歯質:人歯エナメル質 使用研磨紙:#1500 歯面処理条件:3%EDTA30秒間 <TMD処理条件> ラバーカップ回転数、時間: 500rpm、20秒 ラバーカップ種類: メルサージュカップNo.14 TMD処理後:蒸留水で水洗図15TMD処理後。表面粗さRa:0.203μm。研磨傷が埋め立てられた状態。歯面修復効果1(エナメル質研磨傷の修復)図16TMD処理前。表面粗さRa:0.538μm。試験条件 対象歯質:人歯エナメル質 前処理条件:歯ブラシで汚れ除去 <TMD処理条件> ラバーカップ回転数、時間: 500rpm、20秒 ラバーカップ種類: メルサージュカップNo.14 TMD処理後:蒸留水で水洗図17TMD処理後。表面粗さRa:0.392μm。エナメル質表面の凹凸が埋め立てられた状態。歯面修復効果2(エナメル質未研磨面の修復)図18TMD処理前。図19TMD処理後。歯面修復効果3(エナメルクラックの修復)❺臨床例(図20~25) 図20~25は下顎前歯部に限局してみられるステイン沈着症例です。拡大してみるとエナメル質表面の傷やもともと存在する凹凸に沿ってステインが沈着し、なおかつブラッシング時に毛先の当たりが弱いところほどステインやプラークが取り除かれずに残留している様子が観察できます。また縦走するクラックにはステインが入り込んで審美的にも好ましくない状態になっています。 このケースではエナメル質表面の荒れたコンディションをハイドロキシアパタイトで「歯面修復」することを目的にTMDを応用しました。術前の歯面清掃ではワンタフトブラシとADゲルを用いて数歯ずつステイン、バイオフィルム、ペリクルなどの有機質を除去しました。ADゲル水洗後はクラック内に入り込んだ色素も目立ちにくくなっています。 TMDはラバーカップを用いて低速回転でよく擦り込むようにします。塗布後は弱圧にて水洗します。このような歯面修復型のケアを繰り返すことでエナメル質の表面粗さが改善され、ステイン沈着の抑制効果が期待できます。セルフケアにおける日々のブラッシングで容易にステインの再付着をコントロールできる歯面の獲得をめざして行うとよいでしょう。臨床例(図26~29) 図26~29は下顎第二小臼歯頰側に発生したエナメルクラックに起因する知覚過敏症例で、歯頸部象牙質も露出していますが、歯頸部よりエナメル質クラックからの冷刺激に疼痛を訴えていたケースです。咬合ストレスの強い歯牙でエナメルクラックが認められることは珍しくありませんが、ステインが侵入して着色している比較的古いクラックよりも発生したばかりの新しいクラックが知覚過敏の原因となっていることがあります。このようなクラックは発見しにくいため、トランスイルミネーター(製造アドデント 製造販図20歯面清掃前。図23ラバーカップを用いて低速回転(500回転程度)でTMDを十分に擦り込む。図24弱圧にて水洗。図25ステインコントロールしやすい歯面を獲得。図21ワンタフトブラシにてADゲルを数歯ずつ作用させて化学的清掃を行う。 ※軟組織には付着させないように 注意すること※口腔外バキュームで吸引しなが ら行うこと図22化学的清掃を行った32はステイン、プラークが除去されている。❻「ティースメイト® ディセンシタイザー」をプロケアに活用する売(株)モリタ)などのLEDライトを照射することで発見しやすくなります。本症例では歯冠部中央に縦走するクラックの他、咬合による応力が集中する歯頸部側のエナメル質に無数の細かいクラックが観察できました。 TMDはマイクロブラシにてクラックに塗布し、さらにラバーカップを用いて低速回転でよく擦り込むようにします。 本症例ではTMD水洗直後に知覚過敏症状は消退しましたが耐酸性が向上して結晶安定化するまでフッ化物ジェルを10分間塗布し、さらに飲食を1時間控え咬合負担を与えないように指導しました。 TMDは象牙質知覚過敏抑制材料としての臨床効果だけでなく、根面う蝕予防、Tooth Wear進行抑制、エナメルクラック修復、ステイン沈着抑制等、プロフェッショナルケアの視点からも有効利用が期待できる生体に優しくきわめて安全性の高い製品です(図30 )。目に見えない変化でその効果を最大限に引き出すためには、プロケアとバランスのとれたセルフケア用品を選択することが必須です。超高齢社会を反映して加齢に伴う様々な歯牙硬組織のトラブルが増加するなか、まさにエイジングケアのマストアイテムとして利用価値の高い製品となるでしょう。TMDはエイジングケアの3 マストアイテム図30当院における歯のエイジングケアの主な項目。図26LEDライト照射でクラックを確認。図27マイクロブラシでTMD塗布。注: 図1、図2、図 1 、 4 1 図 、 図1 5 、 図1 6 は 高 輪 7歯 科 D C C & D S S の 研 究 デ ー タ (クラレくらしき 研究センター協力)に よ る のも で す。注意 : ADゲルは次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする歯面処理材です。使用に当たっては、口唇、皮膚、衣類に付着しないように十分にご注意ください。図28ラバーカップにてTMDを十分に擦り込む。図29フッ化物ジェルを10分間塗布。今日から使える 経営情報患者さんのハートをつかむアイデア:その6 株式会社デンタル・マーケティング 代表取締役http://www.dental-m.co.jp特 集 2治療開始時にウエルカムブックを活用する<初診時の印象がすべてを決める> 患者さんに喜ばれるためのちょっとした工夫を重ねることで、歯科医院に対する患者さんの信頼を得ることができます。 その工夫のひとつが、ここで紹介するウエルカムブックの活用です。 純新患で来院して、2回~3回来院が継続されれば、その患者さんは治療終了まで来院する可能性が高くなります。初診時に抱く印象は、その後の患者さんの選択に大きな影響を及ぼすといえます。 そのためにも、はじめての来院時に、明るくていねいな挨拶だけではなく、書面(ウエルカムブック)を活用して印象を良くしていきましょう。ウエルカムブックとは、医院紹介パンフレットに、院長の想いをより詳細に綴った「総合カタログ」とお考えいただくとよいでしょう。<患者さんに自院のコンセプトを知ってもらう> このウエルカムブック活用の目的は、患者さんに自院のコンセプトを理解してもらい、「この歯科医院を選んでよかった」「この歯科医院は、他の歯科医院とは違って期待できる」と思ってもらうことにあります。 多くの患者さんは「説明なく急に削られた」「いきなり銀歯を入れられた」「本当は白い歯がよかった」「すぐに歯を抜かれてしまった」など、過去に歯科医院でのマイナス経験を持っています。 それらの情報を把握して、そのような行為を繰り返さないために、ウエルカムブックを活用して説明することで、親切・ていねい・安心感を醸成していきます。 もちろん、ウエルカムブックをそのままお渡ししてもよいのですが、せっかく作成したウエルカムブックを最大限活かすためには、渡し方に工夫が必要です。 初診カウンセリング時に、次のようにお伝えしてお渡ししましょう。 「本日は、私たちの医院のことをよく知っていただきたいと思いまして、このような資料(ウエルカムブック)をご用意させていただいております」と話しながら、ウエルカムブックの中身を説明していきます。 その際に、患者さんのウエルカムブックへの興味の示し方で、その患者さんの治療や予防への関心の高さ、そして健康への意識が把握できます。<ウエルカムブックを作成する際の項目> ・医院の理念やビジョン ・コンセプト ・歯科医師やスタッフなどのスターマーケティング(メンバーをスターのように演出) ・診療時間やメニュー等の基本情報の紹介 ・使用する器材や設備へのこだわり ・予防や健康情報 ・医院からのお願い事項<患者さんに喜んでもらえる医院への道> 歯科医院は、社会的に価値ある業種であり、単に患者さんの口腔を治すだけでなく、より美しく! より健康に! を実現する場所ですから、自院が患者さんに、今以上にもっと喜んでもらえる場所であるという認識を、院長先生には持ってほしいのです。 地域生活者の健康寿命が長期化している今日、その方たちの幸せな人生に貢献することも大きな役割のひとつです。健康寿命とは、介護を受けたり、病気で寝たきりになったりせず、自立して健康に生活できる期間のことです。 患者さんから「こんなことができるようになった。ありがとう」「こんなことが解決できた。ありがとう」と感謝される機会が増えれば、働くスタッフたちが、歯科医院で働くことに誇りと自信を持つことができます。 その結果、地域生活者から口腔の病気を治す場所、もっと喜んでもらえる場所になり、自院が今以上にその価値を世の中に認められる場所になるはずです。寳谷 光教今から始めよう 歯科医院の節税対策:その6 デンタルクリニック会計事務所 代表税理士http://www.dentalkaikei.com今年は人材に投資をして税制改正による節税を受けよう 税制改正の大綱が年初に発表されました。この発表により、2013年度の税制改正の内容がほぼ確定しました。やはり一番の目玉は消費税率アップでしょう。それ以外の改正について私が一番注目しているのが、人材に投資した場合の税金の優遇です。この人材投資の節税は大きく2つのものがあります。1 雇用促進税制の活用で税額控除を 1つ目は、「雇用促進税制」の金額のアップです。雇用促進税制とは、純増で2人以上雇用保険の被保険者のスタッフを雇い入れた場合、1人につき20万円の税額控除が受けられるという規定です。これが、今回の改正により、1人20万円から40万円と2倍にアップする予定です。2人以上雇い入れることが条件ですので、最低でも40万円×2人=80万円の税額控除が受けられます。この税額控除は、単純に80万円の納税額が減りますので、節税効果は非常に高いのです。 この税額控除を受ける上で一番のポイントは、事前にこの規定を受けたいという計画書をハローワークに提出しておかないと、増えたから申告すれば受けられるものではないことです。たとえば、今年雇用するつもりがなかったのに、急に患者さんが増えてきて2人以上雇うことになった場合、事前の計画書の提出がなければ、2人増えようが3人増えようが、この規定は適用されません。 つまり、「2人以上スタッフを増やす可能性が1%でもあるのであれば、事前にハローワークに計画書を出しておく」ということです。もし、計画書を提出しておいて、2人以上増えなければ、この規定を受けられないというだけで、医院にとってのマイナスはありません(書類作成とハローワークに行く労力ぐらいでしょう)。 この規定の対象は、個人・法人ともに適用可能です。適用の対象となるには、次の条件をすべて満たしている必要があります。 ・適用年度とその前事業年度に、事業主都合(解雇・退職勧奨等)による離職者がいない ・適用年度に雇用者(雇用保険一般被保険者)の数を2人以上、かつ10%以上増加させている ・適用年度における給与等の支給額が、一定額以上増加している ・青色申告者 チェアを増やしたり拡大移転をしたりといった投資にともない、積極的に人材にも投資されている医院さんにとっては非常にありがたい改正です。2 「基準雇用者給与等支給額」よりも5%以上増加した場合に税額控除を 2つ目は、給与の支払が一定割合以上増えた場合、増加額の10%の税額控除というもの。青色申告者が、平成25年4月1日から平成28年3月31日までに開始する事業年度で、給与の年間金額が「基準雇用者給与等支給額」よりも5%以上増加した場合、その増加額の10%の税額控除を受けることができます。 この「基準雇用者給与等支給額」とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち、もっとも古い事業年度の直前の事業年度(基準事業年度)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。 なお、この規定は、1つ目の雇用促進税制との選択適用になりますので、どちらもダブルで受けることはできないようです。 せっかく税金の優遇がありますので、このタイミングで積極的に人材にも投資し、医院を飛躍的に発展させてみましょう。山下 剛史歯科医院経営実践マニュアルシリーズ 全41巻 完結! 好評発売中!患者さんの心と信頼をつかむコトバづかいと話し方著:山岸弘子A5判184 頁定価:2,100 円本体:2,000 円 税5%モリタコード 805187これで万全!歯科医院の受付・事務マニュアル著:田上めぐみA5判192 頁定価:2,100 円本体:2,000 円 税5%モリタコード 805267営業のプロが教える自費率が2 倍になるプレゼン話法著:吉野真由美A5判160 頁定価:2,100 円本体:2,000 円 税5%モリタコード 805402歯科医院経営・院長としてやるべきことやってはいけないこと著:妹尾榮聖A5判200 頁定価:2,100 円本体:2,000 円 税5%モリタコード 805507金持ち歯科医になる!利益を出す経営の極意著:山下剛史A5判184 頁定価:2,100 円本体:2,000 円 税5%モリタコード 805205歯科医院経営実践アル人気TOP5 マニュ歯科医院経営実践マニュアルの特長★“1つの仕事に1 冊の本”──この本1 冊で 「歯科医院の個々の仕事」が完璧にマスター できる。★実践的な内容を中心に“理論より実践”を 心がけた内容になっている。★読みやすく、わかりやすいように、1項目 2~6ページで完結する。★豊富な図表・シート・イラストで、使いや すくしている。★執筆陣は歯科医院経営に特化したコンサル タントや歯科医師・公認会計士・税理士な どで構成する。自費率UP スタッフ教育医院の数字実践経営スタッフ教育No.1 No.2No.3 No.4 No.5新シリーズの特長!!新企画! 図解:QDMシリーズスタート!図解:ドラッカーに学ぶ 歯科医院経営50のヒント絶賛発売中!著:井上裕之A5判・124頁(2色刷り)定価2,100円(本体2,000円+税5%)モリタコード:805524クイント・デンタル・マネジメント・図解でコンパクトでわかりやすい・全シリーズを50のヒントで解説・経営になじみのうすい先生でも読みやすく、わかりやすい 歯科医院の経営と真剣に向き合うために、第3のブームにあるピーター・F・ドラッカーの経営理論を紹介。著者・井上裕之が自院で実践し、歯科医院のレベルまで落としこんで、難解といわれるドラッカー理論をわかりやすく、図を織り込みながら解説している。さらに、その考えを、医院のスタッフまで浸透させるために、スタッフがイキイキ働ける組織づくり、その組織を機能させるコミュニケーションのコツについても言及した。【編集協力】歯科医院経営編集部デンタル・マンスリーレポート No.223 2013年8月1日発行歯科学術情報紙編集・発行DMR編集室www.dental-plaza.com大阪本社 大阪府吹田市垂水町3-33-18 〒564-8650 TEL:06-6380-2525東京本社 東京都台東区上野2-11-15 〒110-8513 TEL:03-3834-6161PUB No. M206.1884-1-223.1308.64,000P-SU上記書籍のご購入は、お出入りの歯科商店までお問い合わせください。