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No.225 2015年6月1日発行

パナビア V5がリードするアドヒーシブデンティストリー -レジンセメント2系統3製品で高性能・高操作性を追求-

高輪歯科 加藤 正治 今村 光志(撮影協力)

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パナビア V5がリードする
アドヒーシブデンティストリー-レジンセメント2系統3製品で高性能・高操作性を追求-

高輪歯科加藤 正治 今村 光志(撮影協力)

CAD/CAM時代を担うパナビア V5誕生

新しく5世代目として生まれ変わったパナビアV5は、CAD/CAMによって臨床の現場が大きく変わっていく時代の潮流に波長を合わせた魅力ある製品として誕生した。従来のパナビア F2.0とクリアフィル エステティックセメントを統合して接着性能、操作性、そして審美性の実力をすべて備えたフラッグシップにふさわしい進化といえるであろう。今回のバージョンアップにより、クラレノリタケデンタルのレジンセメントはSA系とあわせてシンプルな編成となった。これを機に、選択肢の広がるメタルフリー材料への対応をふまえてレジンセメント使いこなし術を整理しておきたい。

  • 新製品パナビア V5(クラレノリタケデンタル)

  • パナビア F2.0から飛躍的に進化したパナビア V5

  • ●販売名 パナビアV5
  • ●一般的名称 歯科用接着材料
  • ●医療機器認証番号 226ABBZX00106000
  • ●医療機器の分類 管理医療機器(クラスⅡ)
  • ●製造販売 クラレノリタケデンタル(株) 新潟県胎内市倉敷町2-28
  • ●販売:(株)モリタ

1. 2系統3製品であらゆる補綴修復に対応

図1 2系統3製品に再編されたクラレノリタケデンタルの レジンセメント

クラレノリタケデンタルのレジンセメントは大きく2系統に再編された。ひとつはセルフエッチングタイプのプライマーを併用するパナビアV5であり、もう一つはセルフアドヒーシブタイプ(前処理不要型)のSA系である。SA系はさらに、保険診療にも適したコストパフォーマンスの高いSA ルーティングプラス(ハンドミックス)と、最も接着操作が簡便なSA セメントプラス オートミックスに分けられる。これら2系統3製品を使いこなせばあらゆる補綴修復の要求にも対応できる(図1図1)。

3製品すべてには世界的に評価の高いクラレノリタケデンタル純正の高純度接着性モノマーMDPが配合されており、歯質をはじめ補綴材料との強力な接着力を発揮する。パナビアV5では新しく開発されたセルフエッチングプライマーにMDPと新規触媒を配合しており、歯質への接着においてSA系の2倍近いハイスペックな接着性能を誇っている。この点がSA系との比較においてパナビアV5の最も大きな優位性になっている。一方、SA系はMDPを新技術によりレジンペーストに高濃度に配合したことで、歯質、金属、ジルコニアにプライマーなしで安定した接着を得ることができ、術者だけでなく治療を受ける側にとってもやさしいセメンテーションが行えるように設計されている。

図1 2系統3製品に再編されたクラレノリタケデンタルの レジンセメント

2. パナビア V5の特徴と性能

筆者は臨床歴の中で初代パナビアから経験しているが、今回の5代目のバージョンアップはこれまでで最も飛躍的に進化したと感じる。パナビアF2.0のユーザーであればその違いをすぐに実感することであろう。スペックだけでなくシンプルな製品構成と操作性はテクニカルエラーが発生しにくいように考えられており、「混ぜる」、「練る」といった術者依存性の高い操作が排除されて使いやすくなった点も評価できる(図2)。

図2 パナビア V5 構成品

①1液性トゥースプライマー

これまでの2液性EDプライマーⅡにかわりワンボトル化されたトゥースプライマーが開発された。さらに今回から還元力(重合活性能)の高い重合促進剤を採用したことで、象牙質接着において従来のパナビアF2.0やクリアフィル エステティックセメントを大きく上回る接着性能を獲得したことは特筆すべき点である(図34)。
プライマー作用時間も従来の30秒から20秒へ短縮されており、プライマーの色調が淡青色のため識別性もある。

  • 図3 重合促進剤の還元力

  • 図4 人歯に対するせん断接着強さ

②オートミックスペースト

図5 当医院の症例実績に基づくシェード選択ガイド

セメントペーストはクリアフィル エステティックセメントを引き継ぐオートミックス化が図られ、気泡混入がきわめて少なく、多数歯同時セット時にも操作性が非常によい。シェードは支台歯の色調を活かしたりマスキングしたりしてコントロールすることが可能な5色をラインナップしている。ユニバーサル色を基本に、彩度をアップするブラウン、透明性をアップするクリア、明度をアップするブリーチ、遮蔽性をアップするオペークとそれぞれに対応したトライインペーストが用意されている(図5)。

ラミネートベニアのような脆性な修復物や光が到達しにくい部位でも接着補強効果がフルに発揮されるようにセメントの硬化特性が優れており、デュアルキュアでも化学重合でも高い曲げ強さが得られるようになった。余剰セメントの除去は拭き取り方式の他、光照射により半硬化状態で一塊除去できるタックキュアにも対応する。ただしトゥースプライマーが支台歯周辺歯肉に付着していると硬化促進されるので配慮を要する。なお、オペークだけは光重合に対応しないため、化学重合で最終硬化させる必要がある。

③クリアフィル セラミックプライマー プラス / K エッチャント シリンジ

図6 各種補綴物に対するせん断接着強さ

各種補綴修復材料への接着はジルコニアや二ケイ酸リチウム系ガラスを筆頭に、陶材、レジンブロック、金合金まで高いレベルの接着強さが得られている(図6)。

これまで金合金にはアロイプライマーを塗布する必要があったが、今回からセラミック材料と金属に共通で使用できるクリアフィル セラミックプライマー プラスとして提供されるようにった。パナビアF2.0からの処理上の変更点としては、ジルコニアに対してクリアフィルセラミックプライマー プラスの塗布が必須となる点に注意したい。シランカップリング処理が必要なシリカ系セラミックス等にはリン酸エッチング後にクリアフィル セラミックプライマー プラスを塗布するステップとなる。リン酸エッチング剤は、シリンジタイプになり押し出しやすく垂れない粘度に調整されているため、補綴物の処理の他、エナメル質のセレクティブエッチングにも使いやすくなった。また、口腔内での視認性に優れたブルーになっている。なお、サンドブラスト処理はいずれの補綴材料に対しても試適後に適圧で行うことは従来と同様である。

3. パナビア V5の臨床活用術

ケース1高透光性カタナジルコニアHTによる前歯補綴

上顎前歯部は、ホワイトニングに対応した明度の高い症例から彩度の高い自然な天然歯色を再現する症例まで求められる審美性はそれぞれである。パナビアV5はカタナジルコニアHTフレームとの組み合わせで天然歯との調和を引き出すことができる。支台歯歯質の色調を活かした症例では明度の高いユニバーサル色やクリア色を選択するとよい。ビスケットベイクや最終グレーズ前の試適時にトライインペーストで確認し、情報をラボと連携することでより理想的な完成へ導くことができるであろう。ジルコニアの処理はサンドブラストとMDPを作用させるためのクリアフィルセラミックプライマー プラスの塗布を必要とする。支台歯にはトゥースプライマーを塗布する。装着後は天然歯と同様な光透過性を再現することができる。

ケース1-1 カタナジルコニアHTのフレームデザイン

  • ケース1-2 硬質レジン前装ブリッジ脱離症例。支台歯形成後の上顎前歯。ともに生活歯。

  • ケース1-3 カタナジルコニアフレームHT12にて作製したPFZブリッジ。

  • ケース1-4 試適時、トライインペーストにてセット後の色調を事前にチェックする。

  • ケース1-5 色調確認後、充分に水洗する。

  • ケース1-6 サンドブラスト処理(0.3~0.4MPa)、超音波洗浄。

  • ケース1-7 セラミックプライマープラス塗布、乾燥。

  • ケース1-8 トゥースプライマー塗布20秒後、充分に乾燥。

  • ケース1-9 セメント注入。本症例ではユニバーサルを使用。

  • ケース1-10 ブリッジを圧接し、マージン全周から余剰セメントが溢れ出ることを確認。

  • ケース1-11 余剰セメント拭き取り後、光照射。

  • ケース1-12 セット後のジルコニアブリッジ。

  • ケース1-13 右上1番ジルコニアクラウン(写真右)。右上2番天然歯(写真左)と同様の光の透過性を有する。

ケース2高度な象牙質接着を要求する大臼歯レジンコア

支台築造は、接着の対象が条件の悪い劣化した象牙質であることが多い。クラウンは歯冠外側から切削により露出した象牙質が接着対象となるのに対し、支台築造では歯髄側から切削した象牙質が対象であるため、象牙細管が太く、有機質の割合が多いことと、根管治療や度重なる再補綴によりコラーゲンが変性していることも考えられる。このような予知性の低い象牙質に対してはADゲルにより変性した象牙細管内有機質を除去しレジンタグを打ち込むことで接着強さとともに耐久性、耐酸性を向上させる手法(柏田考案のADゲル法)が有効である。咬合力負担の大きい症例や二次う蝕リスクの高い大臼歯では接着操作にADゲル法を適用すると象牙質接着にさらなる信頼性を高めることができる。パナビア V5には還元力が強いトゥースプライマーが開発されており、 ADゲルユーザーにとっては大変心強い(図7)。
レジンペーストは歯質との識別性を考慮してブリーチを使用すると、支台歯形成時のガイドにもなる。ペーストは根管に直接注入して十分に満たし、気泡の混入を避けることがポイントとなる。

図7 人歯象牙質に対するせん断強さ(ADゲル法)

  • ケース2-1 根管形成終了時。歯根象牙質は変色し、脆弱化している。

  • ケース2-2 支台歯の歯面処理。ADゲル法を行う。K エッチャントシリンジ塗布、10秒後水洗、乾燥。

  • ケース2-3 ADゲル塗布、60秒後水洗、乾燥。

  • ケース2-4 作製したファイバーポスト併用レジンコアを試適調整後、サンドブラスト処理(0.1~0.2MPa)、超音波洗浄。

  • ケース2-5 K エッチャントシリンジ塗布、5秒後水洗、乾燥。

  • ケース2-6 セラミックプライマープラス塗布、エアーブローにて乾燥。

  • ケース2-7 トゥースプライマー塗布、20秒後、充分に乾燥。

  • ケース2-8 ペースト(ブリーチ)を根管内に満たす。

  • ケース2-9 気泡を巻き込まないようにレジンコアを圧接。

  • ケース2-10 余剰セメントを拭き取り後、光照射。後日5番も同様に築造。

  • ケース2-11 支台歯形成後。ブリーチ色使用で形成時の識別性良好。

  • ケース2-12 ケース1同様ジルコニアクラウン内面および支台歯を処理した後、パナビアV5ペーストを塗布。圧接後1カ所につき3~5秒光照射。

  • ケース2-13 半硬化状態で余剰セメント除去(タックキュア)。

  • ケース2-14 セット後のジルコニアジャケットクラウン。

ケース3インレー/アンレーの辺縁封鎖を高める

インレー/アンレー修復ではマージンの大半がエナメル質上に設定されることから、エナメル質との辺縁封鎖性を高める必要がある。パナビア V5ではエナメル質に対してはリン酸エッチングを行うと格段に接着強さを向上させることができる(図8)。
近年、エナメル質を選択的にエッチング処理するセレクティブエッチングが推奨されていることからも、積極的に取り入れたい技法である。
なお、ハイブリッド系や二ケイ酸リチウム系ガラスでは、シランカップリング処理としてサンドブラスト処理後のリン酸エッチングにつづきセラミックプライマープラスを塗布する。
セメントペーストは直接窩洞に注入することで気泡の混入やマージン部への流入不足を回避する。シェードは、空気や水分の介在する状態ではセット後の色調を正確に把握することが困難であるため、適合確認のあとにトライインペーストを用いて決定すると確実である。通常、修復物や歯質よりも濃い色調を選択し、彩度をアップすることでセメントラインは目立たなくなる。したがって2級窩洞、MOD、アンレーなどマージンラインが気になる症例ではブラウンを選択することが多い。

図8 牛歯象牙質に対する引張接着強さ(リン酸エッチング処理)

  • ケース3-1 窩洞形成後の咬合面観。

  • ケース3-2 適合状態の確認。その後トライインペーストを用いて使用シェードを決定。

  • ケース3-3 エステニアインレーを試適調整後、サンドブラスト処理(0.1~0.2MPa)、超音波洗浄。

  • ケース3-4 K エッチャントシリンジ塗布、5秒後水洗、乾燥。

  • ケース3-5 セラミックプライマープラス塗布、エアーブローにて乾燥。

  • ケース3-6 エナメル質にK エッチャントシリンジ塗布、10秒後水洗、乾燥。

  • ケース3-7 トゥースプライマー塗布、20秒後充分に乾燥。

  • ケース3-8 ペースト(ブラウン)を窩洞内に塗布。

  • ケース3-9 インレーを圧接後、余剰セメントを拭き取る。

  • ケース3-10 インレー全体に光照射。

  • ケース3-11 セット後のエステニアインレー。ケース3-2の適合確認時と比較してもマージンラインが目立たなくなった。

ケース4CAD/CAM冠カタナアベンシアブロックをパナビア V5で接着

小臼歯対象に保険収載されているCAD/CAM冠は、ジルコニア等に比べて脱離率が高く、接着の重要性が指摘されている。材料特性からみると、咬合力によって生じる歪みをつなぎ止めるだけの接着が求められるため、クラウンの厚みに反映する形成、適合精度の影響を受けやすい。支台の高径が低いケースや、咬合負担の大きいケース、生活歯で形成量が少ないケース、4番5番連続しているケースでは、接着性能の優れたパナビア V5を選択したい。
カタナアベンシアブロックは組成としてシリカを中心に超微粒子フィラーを高密度充填しているため、シランカップリング処理が必須となる。

  • ケース4-1 CADによるカタナアベンシアクラウンのデザイン。

  • ケース4-2 サンドブラスト処理(0.1~0.2MPa)、超音波洗浄。

  • ケース4-3 K エッチャントシリンジ5秒塗布、水洗、乾燥。

  • ケース4-4 セラミックプライマープラス塗布、エアーブローにて乾燥。

  • ケース4-5 トゥースプライマー塗布、20秒後、充分に乾燥。

  • ケース4-6 クラウン圧接後、余剰セメントを拭き取り、光照射。

  • ケース4-7 セット後の頬側面観。

  • ケース4-8 セット後の咬合面観。

4. イージー・セメンテーションを追求するSA系

セメントチョイスの基準は接着強さや機械的物性だけではない。操作性を重視したユーザーフレンドリーな一面も臨床成績に大きく影響する因子である。操作がシンプルであることはテクニカルエラーの発生が少なくなることである。SA系はタックキュアの操作性に非常に優れており、スピーディな診療が可能である。出血、浸出液のコントロール、防湿、開口制限、ポケット内余剰セメント残留の危険性など臨床の現場で100%の接着を得ることが困難である症例にセカンドチョイスとして用いることでかえっていい結果が得られることもあるであろう。チェアでの患者負担を軽減したい高齢者の補綴修復にも有効な選択となりうる。ユーザーフレンドリーであることは結果としてペイシェントフレンドリーな効果をもたらしてくれる。SA系は容易に最良な接着を得ることができる「イージーセメンテーション」を追求したレジンセメントである。

ケース5カタナアベンシアブロックをSA ルーティング プラスで接着

シランカップリング処理を施せばCAD/CAM冠の接着にも適用できる。症例に応じてパナビア V5と使い分けたい。単冠の接着であればハンドミックスタイプのSA ルーティングプラスが候補となる。

  • ケース5-1 CADによるカタナアベンシアクラウンのデザイン。

  • ケース5-2 支台歯の頬側面観。

  • ケース5-3 ケース4同様にクラウンの内面の処理を行う。

  • ケース5-4 AペーストとBペーストの等量採取後、10秒練和。

  • ケース5-5 全周から余剰セメントが出るようにクラウンを圧接。

  • ケース5-6 余剰セメント1カ所につき2~5秒光照射。

  • ケース5-7 半硬化状態で余剰セメント除去。

  • ケース5-8 再度光照射により最終硬化。

  • ケース5-9 セット後のカタナアベンシアクラウン。

ケース6カタナジルコニアをSA セメントプラス オートミックスで接着

SA系はジルコニアに対してサンドブラスト処理のみで強固な接着が得られるため、複数歯同時セットなど操作性が重視されるケースではSA セメントプラス オートミックスを選択するとよい。

  • ケース6-1 支台歯形成後の上顎前歯。オープンバイト、ウイング捻転症例。すべて生活歯で対応。

  • ケース6-2 カタナジルコニアは形成量に制約がある場合でも審美性が獲得できる。

  • ケース6-3 サンドブラスト処理(0.3~0.4MPa)、超音波洗浄。

  • ケース6-4 SA セメントプラス オートミックスをクラウン内面に塗布。

  • ケース6-5 全周から余剰セメントが出るようにクラウンを圧接。

  • ケース6-6 余剰セメント1カ所につき2~5秒光照射。

  • ケース6-7 半硬化状態で余剰セメント除去探針で装着方向(歯頸側)に向かってはがす。

  • ケース6-8 セット後のカタナジルコニアクラウン。

  • ケース6-9 主訴が改善された。

メタルフリー材料別処理一覧

*:アルミナ粒子(30~50㎛)、材料に応じて空気圧0.1~0.4MPaで適宜調整

参考文献

  • 1)補綴修復イノベーション 細菌と咬合力を重視した生物学的アプローチ 柏田聰明・加藤正治・森田誠/著 医歯薬出版
  • 2)デンタルダイヤモンド 「コンポジット系レジンセメント」徹底活用 加藤正治 デンタルダイヤモンド 35(1)2010年1月号
  • 3)レジンセメント3製品を使いこなす-クリアフィルSAルーティングの臨床的位置づけ- 加藤正治 DMR No.212
  • 4)ジルコニアセラミックス「カタナ」の特性を活かした臨床 加藤正治 デンタルマガジン2012特別号

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