DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

アシスタントのためのイメージアップ講座

第55回(162号)
患者満足向上につながるマニュアル作り -ホスピタリティを育てる-
株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター 伊藤 純子
ASSISTANT ASSISTANT

患者満足向上につながるマニュアル作り〜ホスピタリティを育てる〜

株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター伊藤 純子

前回、このコーナーで“新人を迎える前に”というタイトルで自医院に合わせたマニュアルを作ることをお勧めしました。とはいうものの、マニュアル作りは簡単にできるものではなく、作成している過程で何度も書き直すことが出てくるでしょう。毎日の仕事をしながらだと思いますので、おそらく全て完成するには1年ぐらいかかるのかもしれませんね。
マニュアル作成は仕事経験のあるベテランだからすぐにできるというものではありません。経験者であればあるほど、こういう場合、ああいう場合、こんなこともある、というように経験から様々な状況への対応の方法を書きたくなるものです。豊富な経験から培った事例ですから、色々なイレギュラーな対応が思い浮かぶはずです。しかしこれらすべてをマニュアルに入れてしまうと膨大な量になってしまいます。
そもそもマニュアルとは、その仕事の初心者に対して教えるために標準化、体系化した文書のことです。一人ひとり口頭で教えるのに比べ、複数の初心者を最低限のレベルまで効率よく育成することができます。
イレギュラーな対応は、まず基本の業務あるいは業務の意味がしっかりと理解できていて、仕事の流れもスムーズにこなせている上でできる対応です。ですから、マニュアルはそれぞれの仕事における基本の流れとポイントに絞り、なぜそうするのかという意味、理由をしっかりと記載しておくことが重要です。
ファストフード店で、ハンバーガーを注文すると、「店内でお召し上がりですか?」と聞かれ、トレイに飲み物、ハンバーガー、その他が乗せられて渡されます。それぞれの商品はトレイへの並べ方がマニュアルで決められていて、どの店でもスタッフは同じように並べます。先日、同じように注文したところ、トレイには商品を並べる前に紙が敷かれていましたが、その紙の向きが上下逆さまになっていたのです。
紙をトレイに敷く意味は、衛生面を考えて使いまわしをするプラスチックのトレイに直接食品が触れないように配慮したものですが、もう一つの意味は、その紙面に、キャンペーンや新製品の広告を載せることで、お客様が食事をしながらその情報を見ることを想定しています。
しかし、その時のスタッフは2つ目の意味を理解していなかったのでしょう。単にトレイに紙を敷き、その上に商品を並べるという動作だけを意識していたのだと思います。2つ目の意味は指導されていなかったのかもしれませんが、少し残念に思いました。

雑誌や書類を相手に渡すとき、相手が見やすいように相手から見て正しい向きで渡す、ペンを渡すときに、すぐに書きやすいようにキャップを外して書ける状態にして渡す、はさみや器具を渡すときには尖ったほうを手前にし、相手がとりやすいように安全を考えて渡す、など、これらのマナーはすべて相手の立場に立って考えた動作です。この“相手の立場に立って考える”という意識のことを“ホスピタリティ”といいます。
辞書では、思いやり、優しさ、心からのもてなしという意味と記されています。マナーや対応の動作・手順は、形式だけではなく、このホスピタリティが基となってできているものです。つまり、指導する際には、この向きに置く、左に置く、といった決まり事だけを伝えるのではなく、なぜそうするのか、という意味、理由を理解させることが必要です。そうすることで、状況が変わった時にも、意味や理由から考えて様々な状況に対応できるようになるはずです。
冒頭で書かせていただいたように、ベテランスタッフの方はマニュアルを作る際にあれもこれもと様々な状況への対応も盛り込みたくはなると思いますが、それらはバッサリと省き、基本の動作、言葉を中心とし、その意味をしっかりと伝えていただきたいと思います。様々な状況への対応は現場で先輩が実践することで、見て覚えさせていくとよいでしょう。その時に、なぜそのような対応をしたのかを説明、指導していくことで新人にも臨機応変な対応の考え方が育っていくのです。
そして、マニュアルではなかなか表現できないのですが、最も大切なことが“ホスピタリティ”の意識です。皆さん医療に従事する方はもちろんのこと、サービス業の基本となる意識です。マニュアルを作る際には、ホスピタリティの考え方を基にして患者さんの立場や心理を考えながら、対応、言葉、動作を決めていくとよいでしょう。そのマニュアルで指導していくことで、スタッフの接客能力が向上し、結果として患者満足度を高めることにつながっていくはずです。
マニュアル作りは大変だと思いますが、経験から培った“ホスピタリティ”を伝えることで、患者満足向上に繋がる頼もしい新人を育成してください。

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